Law:チケット転売禁止法が成立
特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律と題する法律が、12月8日未明、参議院で可決され、成立した。
→法律案
参議院では全会一致だったようであるが、特定の興行チケットについての転売を禁止するということは、言い換えると民事上の取引の一部を刑罰をもって禁圧するという法律であり、違和感がある。
従前のダフ屋取締りは、その販売方法に対する取締役であって、転売自体を禁止したものではなかったから、ネットダフ屋は基本的に処罰の対象ではなかった。その穴を埋めるいうことである。
しかし、消費者問題として考えると、購入したチケットが利用できなくなったという場合、払い戻しを求めるか、転売するかだ。行けないチケットの料金を払ったまま諦めろというのはボッタクリである。
そして興行主が払い戻しに応じないのであれば、他に転売することを誰が責められようか。
そのように、合理性は疑わしく、かつ異例な禁止法であるから、その解釈は厳格にすべきであろう。
定義規定の2条を見てみよう。
第二条 この法律において「興行」とは、映画、演劇、演芸、音楽、舞踊その他の芸術及び芸能又はスポーツを不特定又は多数の者に見せ、又は聴かせること(日本国内において行われるものに限る。)をいう。2 この法律において「興行入場券」とは、それを提示することにより興行を行う場所に入場することができる証票(これと同等の機能を有する番号、記号その他の符号を含む。)をいう。
3 この法律において「特定興行入場券」とは、興行入場券であって、不特定又は多数の者に販売され、かつ、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
一 興行主等(興行主(興行の主催者をいう。以下この条及び第五条第二項において同じ。)又は興行主の同意を得て興行入場券の販売を業として行う者をいう。以下同じ。)が、当該興行入場券の売買契約の締結に際し、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示し、かつ、その旨を当該興行入場券の券面に表示し又は当該興行入場券に係る電気通信の受信をする者が使用する通信端末機器(入出力装置を含む。)の映像面に当該興行入場券に係る情報と併せて表示させたものであること。
二 興行が行われる特定の日時及び場所並びに入場資格者(興行主等が当該興行を行う場所に入場することができることとした者をいう。次号及び第五条第一項において同じ。)又は座席が指定されたものであること。
三 興行主等が、当該興行入場券の売買契約の締結に際し、次に掲げる区分に応じそれぞれ次に定める事項を確認する措置を講じ、かつ、その旨を第一号に規定する方法により表示し又は表示させたものであること。
イ 入場資格者が指定された興行入場券 入場資格者の氏名及び電話番号、電子メールアドレス(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(平成十四年法律第二十六号)第二条第三号に規定する電子メールアドレスをいう。)その他の連絡先(ロにおいて単に「連絡先」という。)
ロ 座席が指定された興行入場券(イに掲げるものを除く。) 購入者の氏名及び連絡先
4 この法律において「特定興行入場券の不正転売」とは、興行主の事前の同意を得ない特定興行入場券の業として行う有償譲渡であって、興行主等の当該特定興行入場券の販売価格を超える価格をその販売価格とするものをいう。
まず法律の対象となる催しは、「映画、演劇、演芸、音楽、舞踊その他の芸術及び芸能」又は「スポーツ」に当たるものに限られる。芸術芸能とはいえず、スポーツでもない催しは入らない。直ちに思い浮かぶのは、講演会とかシンポジウムの類であり、航空券とか列車指定券とかもこの法律の適用対象ではない。そしてこれらを特定少数の者に見せることは含まれない。
そして「特定興行入場券」の要件は、不特定または多数人に販売されること、興行主が承諾のない優勝譲渡を禁止した旨を明示し、券面にも書かれていること、入場できる日時と場所が特定され、入場できる人または座席が特定されていること、人が特定されている場合はその人の氏名・連絡先等が確認できる措置が講じられ、座席が特定されている場合は購入者の氏名と連絡先が確認できる措置が講じられている事が必要である。
ということは、無記名の自由席なら転売してもよいが、記名式の入場券や、無記名でも指定券で購入者が特定されるのであれば、転売禁止の対象となりうる。
さらに、肝心の4項には、「業として行う有償譲渡」「販売価格を超える価格をその販売価格とするもの」という2つの要件がある。
「業として」ということは、反復継続性が必要となるので、一般人がたまたま買った特定興行入場券を他に高く転売したとしても、何回もやっているのでなければ罰則の適用対象にはならない。ただし、民事的には効力が生じるかどうか微妙ではあるが。また、販売価格を超える転売でなければセーフなので、いけなくなったチケットを安く他の人に売る行為は、何回繰り返しても大丈夫である。
ただし、罰則の対象とはならないとしても、いずれにしても買った人が入場を断られれば、金返せという揉め事になるだろう。
そういうわけで、本人確認を厳格にして指定された人しか入場させないチケットでは、このような法律がなくったって全然困らないはずである。そこにコストをかけずに転売禁止の実を挙げたいというフリーライダー向けの法律であろう。が、しかし、上記のように一般人がたまたま行けなくなったときに転売するというのなら、この法律の適用対象とはならない可能性が高く、本人確認のゆるゆるなところは結局転売チケットの持ち主を受け入れざるを得ないのであり、やはりこの法律は無意味だ。
ただ、悪いことばかりでもない。転売目的で大量にきっぷを購入しては高値で売り出す業者がこの法律により規制されて衰退すれば、正規の価格のきっぷ購入をしやすくなることは必定だ。
そのことは、取りも直さず、チケットの売れ行きが良くなくなることを意味していると思うのだが、なかなか微妙な話ではないか。
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