免震装置の偽装事件にClass Actionは起きないのか?
クラスアクションとはいっても、日本版のそれで、つまり特定適格消費者団体による集団的消費者被害回復裁判のことである。
この法律ができるときに、どんな事案が想定されるかということになり、その当時まだ記憶に新しかった姉歯事件などの連想からか、マンションの耐震偽装事件で建替えや補修工事が必要となった場合の損害賠償請求が一つの例として説明されていた。
例えば消費者庁のQ&Aでも、Q7に耐震偽装事件が出てくる。→PDF参照
そのような記憶を持っていると、例の耐震ダンパーの偽装事件を聞いたときに真っ先に特定適格消費者団体ではないかと思ってしまうのだ。
KYB免震装置不正 47都道府県で改ざん 東洋ゴムの件数を大きく上回る
今のところ、ニュースで大々的に取り上げられているのは、公共施設が大部分なのだが、マンションも含まれているらしい。
東洋ゴムのケースでは、免震装置ゴムのデータを国の基準に合うよう改ざんし、全国の官公庁やマンション、百五十四棟に出荷していた。
東洋ゴムは問題製品の交換作業を進めているが、工事を済ませたのは今年九月末時点で九十八棟にとどまっている。建物の所有者や工事業者との調整に時間がかかり、発覚から三年以上が過ぎた今も尾を引いている状況だ。
ということであり、救済は必ずしも行き届いているわけではなさそうである。
今回発覚したKYB免震装置も、マンションを含めて986件ということだが、国の基準に満たないものや契約で定められた基準を満たしていないものがその一部に含まれているという。
そうした事例が一般消費者の購入するマンションにあるのであれば、まさしく消費者裁判手続特例法で想定した偽装事件であって共通義務確認訴訟の対象となりやすい。
ただし、とりあえず報道だけからは、どの建物にどのような偽装があったのか明らかになっていないので、マンションのようなケースでは購入した区分所有者が自分のこととして知ることができるかどうか、疑問なケースもあろう。さらには、仮にわかったとしても、直接の契約相手ではない事業者に、直接不法行為責任を追及すべきなのか、あるいはマンションのデベロッパ―の責任を問うのか、問えるのか、具体的に共通義務確認訴訟の提起を検討しても詳しい事実関係が分からないと踏み出せなさそうである。あと、2003年から検査データをごまかししていたというから、消費者裁判手続特例法施行前の事案も数多いようである。
このあたりは、まさに特定適格消費者団体の腕の見せどころなのかもしれないが、日本版クラスアクションの行使は簡単ではないという一例である。
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