arret:接見交通権侵害が認められた事例
最高裁判所が人権の砦だとかいう信用はすっかり地に落ちているのだが、それでもこういう判断で高裁の判決をひっくり返すあたりは、期待が持てる存在なのであろうか。
保護室に収容されている未決拘禁者との面会の申出が弁護人等からあった場合に,その旨を未決拘禁者に告げないまま,保護室収容を理由に面会を許さない刑事施設の長の措置は,特段の事情がない限り,国家賠償法上違法となる
保護室というのは、刑事収容施設法79条に定められた、以下のような場合に72時間以内を原則として収容する拘置所内の特別な部屋である。
一 自身を傷つけるおそれがあるとき。二 次のイからハまでのいずれかに該当する場合において、刑事施設の規律及び秩序を維持するため特に必要があるとき。
イ 刑務官の制止に従わず、大声又は騒音を発するとき。
ロ 他人に危害を加えるおそれがあるとき。
ハ 刑事施設の設備、器具その他の物を損壊し、又は汚損するおそれがあるとき。
そして保護室に収容されているということは、上記のような緊急のケースであるから、弁護士との接見を許さないという判断も一見すると許されるようにも思える。
福岡高裁は、保護室に収容されている被告人との面会の申出が弁護人からあっても、これを被収容者に告げるかどうかは刑事施設の長のの合理的な裁量に委ねられているので、被収容者に申出の事実を告げないで面会を許さない措置が取られても裁量の範囲を逸脱するとはいえないとした。
これに対して最高裁は、まず接見交通権について以下のように判示する。
刑訴法39条1項によって被告人又は被疑者に保障される接見交通権は,身体の拘束を受けている被告人又は被疑者が弁護人又は弁護人となろうとする者 (以下「弁護人等」という。)の援助を受けることができるための刑事手続上最も重要な基本的権利に属するものであるとともに,弁護人等からいえばその固有権の最も重要なものの一つである
そして未決拘禁者の処遇に当たって防御権の尊重を説く刑事収容施設法31条や面会は原則として許すとしている同法115条に照らして、「刑事施設の長は,未決拘禁者の弁護人等から面会の申出があった場合には,直ちに未決拘禁者にその申出があった事実を告げ,未決拘禁者から面会に応ずる意思が示されれば,弁護人等との面会を許すのが原則」だとする。
問題は保護室に収容されている段階で、しかも保護室収容事由が現に生じている時点でも申出があったことを告げなければならないかという点である。
これについて最高裁は、刑事施設の長が面会を許さない措置をとることも許されるとしつつ、以下のように指摘する。
面会の申出が弁護人等からあった事実を告げられれば,面会するために大声又は騒音を発することをやめるなどして同号に該当しないこととなる可能性もある
保護室に収容されている未決拘禁者との面会の申出が弁護人等からあった場合に,その申出があった事実を未決拘禁者に告げないまま,保護室に収容中であることを理由として面会を許さない刑事施設の長の措置は,未決拘禁者が精神的に著しく不安定であることなどにより同事実を告げられても依然として同号に該当することとなることが明らかであるといえる特段の事情がない限り,未決拘禁者及び弁護人等の接見交通権を侵害するものとして,国家賠償法1条1項の適用上違法となる
要するに、暴れている被収容者でも、弁護人等からの面会申出があれば、それに応じるためにおとなしくなるかもしれないから、その旨を告げないまま面会を許さないというのは違法だというわけである。
極めてまっとうな判断という他はない。
その前提として判示された接見交通権を「刑事手続上最も重要な基本的権利」と位置づけ、それを実質的に保障しようと、きちんと考えられた判断と評価できる。
| 固定リンク
「裁判例」カテゴリの記事
- Arret:共通義務確認訴訟では過失相殺が問題になる事案でも支配性に欠けるものではないとされた事例(2024.03.12)
- Arret:欧州人権裁判所がフランスに対し、破毀院判事3名の利益相反で公正な裁判を受ける権利を侵害したと有責判決(2024.01.17)
- jugement:大川原化工機の冤罪事件に国賠請求認容判決(2023.12.27)
- arret:オノアクト贈収賄事件に高裁も有罪判決(2023.10.24)
- arret: 婚姻費用分担請求に関する最高裁の判断例(2023.08.08)
コメント