Americaでの発信者情報開示
ここで紹介されているのは、クラウドフレア社(アメリカ)のコンテンツ配信サービスを利用して著作権侵害行為を行っていた漫画村についての身元特定情報を、アメリカでの訴訟により取得したという事案である。
アメリカでは氏名不詳人を被告とする訴え提起が可能であり、その中でディスカバリー手続としてクラウドフレア社に情報開示を命じる召喚令状(Subpoena=サピーナ)を発し、同社から契約者の情報を取得したという。加えてPaypalからの情報取得も行われている。
アメリカでの訴え提起は、これで目的を達して取下げとなったという。
さて日本では、周知の通り、発信者の情報が不明である場合には、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求権を行使して、プロバイダ(コンテンツプロバイダや経由プロバイダ)から発信者の特定に資する情報を開始させる。この開示請求権にプロバイダが任意に応じるのであれば良いのだが、そうでなければ訴訟により判決を得て、強制するしかない。
発信者の氏名や住所を直接保有しないコンテンツプロバイダに対しては、アクセスログによるIPアドレスとタイムスタンプを開示してもらい、そのIPアドレスを割り当てた経由プロバイダに発信者の住所氏名を開示させる。コンテンツプロバイダは任意の開示に応じたり、仮処分で認められれば任意開示されたりしているが、経由プロバイダは原則として判決確定まで開示に応じない。
かくして、被害者が発信者から被害回復を受けるには、二重、三重の法的手段が必要となっている。
上記のクラウドフレア社と漫画村のケースでも、別の報道では発信者情報開示の仮処分が認められたという事例が出ている。
クラウドフレアに「発信者情報開示」命令、海賊版サイト「ブロッキング」に影響も
東京地裁は10月9日、CDN(コンテンツ配信ネットワーク)などのサービスを提供する米クラウドフレア(Cloudflare, Inc.)に対して、キャッシュファイル削除と発信者情報開示を命じる仮処分を決定した。クラウドフレアをめぐる判断は国内初とみられる。担当した山岡裕明弁護士は「海賊版サイトに対する突破口につながる」と話している。クラウドフレアは、大量のアクセスを効率よくさばくための配信サービスを運営している米カリフォルニア州の企業であり、元のファイルではなく、キャッシュファイルを保有している。多くの海賊版サイトや掲示板サイトも、このサービスを利用しており、ユーザーは元のファイルではなく、キャッシュファイルを閲覧している。
クラフドフレアが裁判外での削除や開示をもとめる請求に応じない中、山岡弁護士は今年7月、クラウドフレアの配信設備が国内にあることに着目して、東京地裁に仮処分を申し立てた。クラウドフレア側は「元のファイルを保有しているわけではなく、削除権限を有しない」などとして、申立てを取り下げるようもとめていたという。
こちらの記事に記されている内容はいろいろと興味深いが、ともかくもクラウドフレア社についても日本の発信者情報開示のルートでも情報取得が試みられている。
ただし、仮処分命令は、海外での効力が疑わしく、開示命令を前提とした任意開示に応じてこなければ、空振りとなる。
その意味ではアメリカでの発信者情報開示の仕組みを使う方が効果的であることは間違いない。問題は、コストや方法の一般化であろうから、事例が積み重なれば、そうしたやり方が普通になるかもしれない。
なお、次の記事は、上記と同じ仮処分で、削除を命じた部分とブロッキングの是非について焦点を当てたものだ。
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