Colloque:憲法院の裁判に執行手続が必要?
グルノーブル大学の以下のシンポジウムはテーマが興味深い。
冒頭の紹介文によれば、憲法院の判決に執行手続を規定した条文はなく、学説も無関心だが、類似制度を有するドイツやスペインには憲法裁判所の判決を、その名宛人に強制する手段が規定されているという。
フランスにそれが必要か、必要だとしてどういう制度が良いのかを、このシンポでは議論する。
非常に興味深いではないか。
日本では、最高裁場所が違憲判決を下すと、それを内閣に伝達するということで、事実上の法改正を促すというだけであり、そもそも判決の効力が事件の範囲を超えて生じるわけではないので、違憲と判断された法令が無効となるわけではない。
しかし、仮に違憲と判断された法令が無効となるのであれば、逆に執行手続は不要ということになる(現在の形成判決には執行手続はない)。特に法令違憲なら、以後同じ法令の適用を求めても、裁判所がノーと言えば良い。
しかし、しかし、さらに考えてみると、違憲判決はそう単純でもないことが近時、実例を持って明らかにされている。例えば非嫡出子の相続差別違憲判決では、抽象的に違憲の効力が生じるとすると、これまでやってきた全ての相続と遺産分割手続を見直さなければならず、抽象的な効力を否定する建前のもとでも、いつから相続差別が無効になるのかを示さなければならなかった。立法なら時際法を附則につけることで解決するべき問題である。その他、議員定数不均衡で違憲として選挙を無効にするとなれば、その後をどうするのかがはっきりしない。とすると、どうすべきなのか、判決で一種の給付条項をつける必要が出てくるかもしれない。それについては執行力も必要ということになるかもしれない。ただ、これは違憲判決の効力というよりも、行政訴訟の判決の効力問題なのかもしれない。
ということで、単純に考えれば違憲判決に執行手続というのは想定できないが、違憲判断に差止とかの給付条項が付いている場合とか、違憲であることを前提にじゃあどうするということが問題となるような事例では、違憲判決の執行と言えるかどうかは微妙だが、ともあれ憲法判断の執行なり強制なりということが必要となることもありうる。
実際にも、最高裁が違憲状態とか事情判決とかで憲法的判断を示しつつ、きちんと処理してねと国会に判断を任せているのに、お手盛り定員増加を進めるというような国会の有り様では、現実問題として強制手段が必要ということになりうるかもしれない。
しかしそれこそ憲法改正が必要な事項だとは思うが。
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