jugement:弁護士会照会をしたことを不法行為とする賠償請求が棄却された事例
非常に興味深い事例である。
事実関係は込み入っているが、かいつまんで言うと、同族会社の元社長の息子が勤務実態もないのに給料を得ていたとして、会社が元社長に会社法423条の責任を追及した訴訟で、一審は請求棄却となったので、控訴審で会社側代理人が弁護士会を通じてその息子の確定申告書10年分を関与税理士に提出するよう、弁護士会照会をした。税理士はこの照会に応じて確定申告書を弁護士会に提出し、これを入手した会社側代理人が上記の訴訟で勤務実態のないことを立証し、会社は逆転勝訴した。
そこで、息子が、自身の確定申告書を提出した税理士に守秘義務違反であるとして損害賠償を求め、この訴訟は一審で請求棄却となったものの、控訴審で守秘義務違反の不法行為が認められ、請求認容となった。この事自体も注目に値するものではある。
それとは別に、息子が、守秘義務違反となるような報告を求める弁護士会照会をした事自体が不法行為であると主張し、照会元の弁護士会を訴えたのが本件である。
これに対して浅見コートはどう答えたか?
京都地裁は、判断枠組みとして以下のように述べる。
弁護士会の自律に委ねられた照会の審査手続と審査基準は、照会申出が「権利の実現や真実発見・公正な判断という弁護士会照会制度の趣旨に沿ったものであることを判断できるもの」であり、照会相手方に公法上の義務を負わせるものであるから照会先の利害との利益衡量ができるものでなければならず、そのような基準と手続は合理的なもので弁護士会の自律に委ねられた範囲内のものと解されるので、そのような合理的な審査手続と審査基準によって判断された照会は特段の事情がない限り違法性がないと解される。
そのような審査手続や基準に反した場合でも、それが不法行為となるには、「違反の内容、程度のほか、侵害された権利の内容、侵害の程度等を考慮して、不法行為法上も違法な権利侵害であると言えなければならない」。
その上で本件では審査基準や手続が合理的なものと認められ、本件照会もその基準に従って必要性・相当性があると判断されるものと認められるとした。
弁護士会照会をめぐっては、北海学園大学の酒井博行教授が活発に検討を加えているところだが、本判決もその格好の検討素材となることであろう。
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