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2017/12/28

Arret:ハーグ子奪取条約実施法117条の適用により終局決定が見直された事例

最決平成29年12月21日決定全文PDF

ハーグ子奪取条約に基づく国内手続を定めた実施法の適用をめぐる最高裁決定である。

事案は、アメリカ在住の夫婦間に11歳の双子の男の子と、6歳の双子の男の子および女の子の、合計4人の兄弟姉妹がいたが、妻が子どもたちを連れて日本に帰国し、アメリカに戻る予定を変更して、そのまま夫の了解のもとでインターナショナルスクールに通わせるなどしていた。
その後、帰国をめぐって両親の意見が対立するようになったので、夫がハーグ子奪取条約に基づく子の返還の申立てをしたというものである。

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大阪高裁の決定は、11歳の双子がいずれも帰国を強く拒絶し、6歳の子どもたちも否定的であったため、子奪取条約実施法28条1項5号の返還拒否事由があると認めながら、同項柱書但書きの適用により、返還を命じた。
なお、この時点で申立人には子どもの適切な監護養育をする経済的基盤がなかったとされている。

第二十八条 裁判所は、前条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる事由のいずれかがあると認めるときは、子の返還を命じてはならない。ただし、第一号から第三号まで又は第五号に掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができる。

一 子の返還の申立てが当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時から一年を経過した後にされたものであり、かつ、子が新たな環境に適応していること。

二 申立人が当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に子に対して現実に監護の権利を行使していなかったこと(当該連れ去り又は留置がなければ申立人が子に対して現実に監護の権利を行使していたと認められる場合を除く。)。

三 申立人が当該連れ去りの前若しくは当該留置の開始の前にこれに同意し、又は当該連れ去りの後若しくは当該留置の開始の後にこれを承諾したこと。

四 常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること。

五 子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること。

六 常居所地国に子を返還することが日本国における人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により認められないものであること。

その後、申立人の自宅が競売にかけられ、明け渡すという事件があった後に、申立人は代替執行を申し立てた。

しかし、その代替執行において、執行官は、特に11歳の双子が申立人との会話で帰国を拒絶していることから、「執行を続けると長男及び二男の心身に有害な影響を及ぼすおそれがあることなどから,その目的を達することができないものとして,執行不能により終了」とした。

子奪取条約実施規則89条

次に掲げる場合において、解放実施の目的を達することができないときは、 執行官は、解放実施に係る事件を終了させることができる。
一 解放実施を行うべき場所において債務者又は子に出会わないとき。
二 解放実施を行うべき場所において債務者及び子に出会ったにもかかわらず、子の監護を解くことができないとき。

こうした経緯の末、相手方である妻が、子奪取条約実施法117条による変更決定を申し立てたわけである。

第百十七条 子の返還を命ずる終局決定をした裁判所(略)は、子の返還を命ずる終局決定が確定した後に、事情の変更によりその決定を維持することを不当と認めるに至ったときは、当事者の申立てにより、その決定(略)を変更することができる。ただし、子が常居所地国に返還された後は、この限りでない。

最高裁は、執行不能となったことではなく、申立人が自宅を競売で手放したことについて、「本件子らが米国に返還された場合の抗告人による監護養育態勢が看過し得ない程度に悪化したという事情の変更が生じた」と認めて変更決定を妥当と判断した。

以上が最高裁決定の内容だが、決定文だけ見ると色々と疑問は生じる。
そもそも返還拒否事由があると認めながら、なぜ返還を命じたのか? また、返還拒否事由としては3号の、申立人の同意承諾があったと言えそうな事例でもある。ただまあ28条1項柱書但書きの一切の事情はわからない。

一番大きい疑問は、既に変更前決定の段階で申立人の経済的基盤もなく、子どもたちの拒絶の意思も明確に示されていたにも拘わらず、申立人が住居を競売されたという点でもって事情変更があったと判断した点である。
この部分は、家を競売されたということそれ自体が決定的な事情変更というのではなく、それ以前から返還が妥当ではない諸事情があり、これに最後のひと押しとして加わった事情として競売があると見るべきなのであろう。
そして、本来ならば、子どもたちの意思とか生活環境とかは時間とともに移り変わるし、決定の執行を試みて判明する部分もあるのであり、そのような状況変化の方が117条の「事情の変更」として考慮するにふさわしいと思うのだが、そうではなくて申立人の経済的な状況の変化をあえて捉えたというところに、小池裕裁判官が補足意見で言及した「確定した終局決定を変更する実施法117条の適用には慎重」であるべきという思想の影響が見られる。つまり確定決定を覆す事情には、何らかのエポックメイキングな出来事が必要なのであり、変更前決定の時に既にあったことの再確認では足りないという解釈であろう。

私は、そのような外形的な変化がなくとも、子どもの意思が改めて示されたとか、執行を試みてもダメだったとか、そういう事情も総合考量して117条の適用を積極的にしていくべきであろうと考える。手続的な安定よりも、事案の適切な解決、特に子の利益の尊重のために適切な解決をするという方が優先すると考えるべきだからである。

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