LAWASIA2017に参加
LAWASIA2017が東京ニューオータニホテルで開催されていたので、授業開始前の二日間、参加してきた。
お目当ては、キャッシュレス決済に関する報告だったが、クレジットカードの問題と仮想通貨の問題とは相当性質が違うのに、わずか1時間半の中で両方取り上げるのはいずれに興味があっても時間がもったいない感じがした。
それよりも、興味深いのは司法のIT化の話であり、法律事務所のIT対応、さらにはAI対応の話であった。
司法のIT化のセッションは、日本から杉本純子先生(日大)が登壇され、日本の現状について報告された。
当然のことながら、司法のIT利用については日本は極めて後進的で、未だに紙媒体とせいぜいFAXが最先端機器扱いされていることが、アジア太平洋地域の弁護士たちの目の当たりとするところとなった。
杉本先生自身は最近までアメリカで勉強されていて、アメリカのCM/ECFを間近で見てこられた体験からして、日本の現状を変えてくれる原動力となるかもしれない。
杉本先生に並んで登壇されたのは、シンガポール最高裁のJudicial Commissionerを勤められているAedit Abdullah氏、韓国Daegu地裁の部総括判事Hoshin Won氏、そしてドイツ連邦弁護士会の副会長であるMartin Abend氏である。
シンガポールも韓国もITを利用した司法という点では先進国に数えられる二国であり、特にシンガポールは日本からも何度も視察に行っているように、アグレッシブに技術の活用を進めている。
技術の方も、インターネットとPCの世界からスマホを中心とするモバイルへと進化しているので、モバイル裁判が今後のトレンドなのだそうだ。
いつでもどこでも裁判所にアクセスして申立てをしたり、記録を見たり、あるいは相手方や裁判所と交渉したりすることが可能となり、開廷表も当然スマホの予定表として共有され、訴訟の各種申立書や準備書面、証拠書類などもデジタルで共有ストレージに入っている。これらはすべて、スマホから操作可能となりうる。
こんな未来がすぐそこという感じの報告であった。
これに対する日本の現状は、シンガポールでのold daysの写真が表している。
また司会者のグアム最高裁前長官は、その場でスマホのアプリをダウンロードさせ、聴衆の反応をグラフ化して見せる、まあNHKが番組アンケートとしてよくやっているようなことを取り入れていた。これぞ、ハイテクだと言っていた。
しかし、韓国の裁判官は、一定のIT利用が進んだ上で述べておられるのだが、機械に使われるようではいけない、機械を人間が使うのだといい、少しIT利用についても見直しが必要という発言をされていた。
さらにはドイツ人も、まあドイツがIT利用に積極的かというと本音のところではどうかなと思うが、裁判所のIT利用について立ち止まって考えてみるべきという趣旨のニュアンスを醸し出していた。
とは言え、これらの国々はオンライン申立てやオンライン送達、ケースマネージメントなどを利用した上での話であることを忘れないようにしないと、日本の実務家に間違ったメッセージとして受け止められるのではないかという心配がある。
言ってみれば、夏休みの宿題をとうに済ませた小学生が余裕こいているのを見て、また全然できていない小学生が油断するみたいな、そんなことにならないと良いのだが。
法律事務所のIT化については、いろいろ興味深かったが、総じて、AIの活用については、このレベルの人達であってもまだまだ及び腰なのかという印象を受けた。
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