Droite japonaise:灘校の歴史教科書採択に関する「謂れのない圧力」
日本は右傾化しているとか保守化しているとか、あるいはしていないとか、色々と言われているが、民族主義的で歴史修正主義に基づく「運動」が、草の根というにはあまりにも強力に、そして自民党の地方議員や国会議員も巻き込んで、活動していることが、あの有名な灘校の校長先生の文章からひしひしと伝わってくる。
歴史教科書の採択をめぐり、学び舎による『ともに学ぶ人間の歴史』を採択したところ、以下のような圧力があったという。
まずは自民党の一県会議員から「なぜあの教科書を採用したのか」と詰問
ついで自民党のOB衆議院議員から「政府筋からの問い合わせなのだが」と断った上で同様の質問
その後、今年になって、水間政憲という人のブログに扇動された多数の匿名人から、ハガキで「何処の 国の教科書か」とか「共産党の宣伝か」とか、ひどいのはOBを名乗って「こんな母校には一切寄付しない」などの添え書きが寄せられた。
さらには印刷された多数の抗議ハガキ。
ついには産経新聞がさらに扇動記事で「慰安婦記述 三十校超採択̶̶「学び舎」 教科書 灘中など理由非公表」を載せ、ついでに月刊誌WILLに前述の水間政憲という人の「エリート校―麻布・慶應・灘が採用したトンデモ歴史教科書」なる記事が載せられた。例によってチャンネル桜でも拡散した。
こうした一連の「活動」について、校長先生は保坂正康昭和史のかたち (岩波新書)第二章「昭和史と正方形̶̶日本型ファシズムの原型̶̶」に言及されている。
そして、現代日本の状況について、以下のように述べられている。
第一辺については、政府による新聞やテレビ放送への圧力が顕在的な問題となっている。第二辺については、政治主導の教育改革が強引に進められている中、今回のように学校教育に対して有形無形の圧力がかかっている。第三辺については、安保法制に関する憲法の拡大解釈が行われるとともに緊急事態法という治安維持法にも似た法律が取り沙汰されている。第四辺に関しては流石に官民挙げてとまではいかないだろうが、ヘイトスピーチを振りかざす民間団体が幅を利かせている。
こうした現状認識は、ネット上などで見かける「普通の人々」の言論の立ち位置からすると極めて左翼的にさえ思えるのだが、そう思えること自体の時代性を感ぜざるを得ない。
ということで、嘆かわしく真面目に警戒すべき民族主義的修正主義的策謀というのは確かに存在することが明らかにされているとともに、灘とその校長先生が現代においてもまともなセンスをお持ちであることが判明する素晴らしい記事だ。
それだけではない。学び舎の教科書採択理由について書かれた次の一文は、本筋とは少し違うが、極めて印象的だ。
(学び舎は)既存の教科書が高校受験を意識して要約に走りすぎたり重要語句を強調して覚えやすくしたりしているのに対し、歴史の基本である読んで考えることに主眼を置いた教科書、写真や絵画や地図などを見ることで疑問や親しみが持てる教科書を作ろうと新規参入した
(中略)
これからの教育のキーワードともなっている「アクティブ・ラーニング」は、学習者が主体的に問題を発見し、 思考し、他の学習者と協働してより深い学習に達することを目指すものであるが、そういう意味ではこの教科書はまさにアクティブ・ラーニングに向いている
まるでロースクールについて言われているかのような文章だ。
ソクラティックメソッドに象徴されるようなロースクルールの教育方法(いわゆるソクラティックメソッドだけではなく、双方向型と総称される方法)は、今でいう反転授業とかアクティブ・ラーニングとかそのものであり、覚えることではなく考えることを主眼にするものだった。しかし、司法試験を意識して「要約に走りすぎたり重要語句を強調して覚えやすくしたりしている」教材とこれを元に大量の知識を垂れ流して覚えろという一方通行の講義方式にはついぞ勝てなかったし、そうした方式に慣れ親しんだ教員にも受け入れられなかった。
考えてみれば、アクティブ・ラーニングには学生の方も先生の方も、大きな手間がかかるので、水は低きに流れる以上、当然のことではあった。そして確かにアクティブラーニングでは取り上げられる知識量がどうしても限られるので、知識習得という観点では遠回りであるし、大量の知識習得を必要とする司法試験の世界では不利でもあった。
そこで新司法試験は知識偏重ではなく具体的事例に考えて答えを出す能力を試すものにしようということになったのだが、教育の方もそれに対応できたところは少なく、また要求される知識量が少なくなることに対する先輩法曹のネガティブな反応もあり、新しい司法試験のあり方が十分成長したとは言い難いように思う。この最後の点は、まだ結論を出すには早すぎるのかもしれないが。
そういうわけで、アクティブ・ラーニングや反転授業とその狙いについて、基本的に私は共感するし、自分でもやってみようと思うし、現にちょびちょびながら手を出してはいるが、日本の教育がそういう方向に動くかというと、全く期待は出来ないでいるのだ。
それにアクティブラーニングというのは基本的にお上の命令に盲目的に従っちゃう群衆を効率よく育てる教育とは対極にあり、権力にとっては都合の悪い人物を育てることでもあるので、内容的に反日だというだけではなく、そういう意味でもウヨには気に入らない方向性なのであろう。
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