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2017/07/17

proc.civ.:民訴教材:時機に後れた攻撃防御方法の却下例

知財高判平成29年1月18日裁判所WEB(平成28(ネ)10032号)には、時機に後れた攻撃防御方法の却下が行われている。

事案は日亜化学が発光ダイオードに関する特許侵害訴訟提起のプレスリリースをしたことについて、その侵害者側の事業者が差止めと損害賠償を求めたというものである。

時機に後れた攻撃防御方法の却下については、以下のように判断されている。
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被控訴人は,別紙の本件追加主張を含む平成28年11月25日付け控訴人第14準備書面における主張及び証拠(甲177ないし187)は,時機に後れて提出された攻撃防御方法であるから却下すべきである旨主張する。

 そこで,検討するに,本件における審理の経過は,次のとおりである。

 本件控訴は,平成26年3月14日に提起され,その後,平成27年11月11日の第3回口頭弁論期日において,被控訴人が,新たに,審理の争点となった構成要件E及びF’の充足性についての主張立証を準備することが予定され,同年12月21日の第4回口頭弁論期日において,被控訴人からEPMA分析による報告書(乙73,74)が提出され,これに基づく主張がされた(被控訴人準備書面(3)参照)。そして,平成28年4月14日の第5回口頭弁論期日において,被控訴人の上記主張立証に対する控訴人の反論とこれに対する被控訴人の反論がされた。同期日において,裁判所の釈明により,被控訴人が,次回期日までに,本件再訂正について通常実施権者の承諾を得ていないとの控訴人の主張に対する具体的な反論と,上記承諾の有無について主張立証を準備することとなった。同年7月14日の第6回口頭弁論期日において,被控訴人から上記本件再訂正についての通常実施権者の承諾に関する主張立証がされた。控訴人からは,侵害論として,控訴人各製品においては1種類の蛍光体しか使用していないことの主張立証がさらにされたことにより(控訴人第10準備書面参照),被控訴人がこれに対する反論を準備することとなり,被控訴人の準備書面の提出期限とこれに対する控訴人の準備書面の提出期限が定められた。同年10月13日の第7回口頭弁論期日において,被控訴人から上記反論がされたのに対し,控訴人からは,さらに,専門家の意見書等の新たな証拠(甲168ないし176)が提出されるとともに,その反論がされた。このように,控訴人から新たな証拠を提出して主張がされたため,被控訴人がその反論を準備することとし(提出期限:同年11月4日),控訴人も,被控訴人の反論に対する再反論があれば,その限りで提出することとし(提出期限:同月25日),また,控訴人の要望により,これまでの当事者双方の主張立証をまとめた技術説明会を実施し,次回期日で口頭弁論を終結することを予定して,次回の第8回口頭弁論期日が平成28年12月6日に指定された。

 そして,期日間において,予定されていた被控訴人からの反論が記載された平成28年11月4日付け準備書面が提出されたのに対し,控訴人は,本件追加主張のとおり新たな主張を含む同月25日付け控訴人第14準備書面を提出するとともに,新たな証拠(甲177ないし186)を提出した(本件追加主張は,別紙のとおりであり,被控訴人の上記準備書面に対する再反論の範囲を大幅に超えるものである。)。さらに,控訴人は,同月29日には,本件追加主張と関連証拠を含む内容の技術説明資料(甲187)を提出したものの,被控訴人は,本件追加主張と関連証拠に対しては,別途反論及び立証が必要となるから,時機に後れた攻撃防御方法であるとして,その却下を求め,控訴人が本件追加主張の主張立証も含めるのであれば,予定されていた技術説明会の実施は困難であるとして,その実施自体にも反対した。当裁判所は,同年12月6日の第8回口頭弁論期日においては,本件追加主張が時機に後れた攻撃防御方法であるか否かについては,判決中で判断するとして,当初予定されていた技術説明を実施せず,口頭弁論を終結した(以上の各事実は,いずれも訴訟手続上,当裁判所に顕著である。)。

 以上の審理の経過に照らすと,被控訴人によりEPMA分析等に関する報告書(乙73,74)が提出され,これに基づき主張がされたのは平成27年12月21日の第4回口頭弁論期日であり,その後は,被控訴人による分析結果の内容等を中心とする控訴人各製品において2種類の蛍光体を使用しているか否か(構成要件E及びF’)が重要な争点の一つとして審理が進められ,控訴人及び被控訴人の双方とも,この点に関し,準備書面を提出し,主張と反論を続けてきたこと,また,技術説明会の実施については,第7回口頭弁論期日までにされた主張,立証とそれに付随する反論の範囲内で実施することが確認されていたものであり,これに対し,第4回口頭弁論期日からほぼ1年が経過した平成28年12月6日の第8回口頭弁論期日の直前に提出された,控訴人の本件追加主張及びこれに関連する証拠(甲177ないし187)は,争点及び証拠の整理を終了し,技術説明会を実施した上で口頭弁論を終結することを予定していた期日の直前において初めて提出されたものであるから,その審理経過などからみても,時機に後れて提出された攻撃防御方法に当たるものであることは明らかである。

 そして,以上の経過に照らせば,争点の専門性を考慮しても,控訴人及び控訴人訴訟代理人において,本件追加主張及び証拠(甲177ないし187)の提出をより早期に行うことが困難であったとは考えられないから,本件追加主張及び証拠は,少なくとも重大な過失により時機に後れて提出されたものと認められる。

 これに対し,控訴人は,被控訴人が,平成28年11月4日付け被控訴人準備書面(11)において,①Raman分析(乙32,33)では,蛍光体1粒子のみを測定しているため他の組成の蛍光体が含まれる可能性は排除されない,②EPMAのX-ray mapping分析(乙73,74)に関し「定量分析(濃度換算)」はしていない,などの新たな事実が初めて開示されたことを理由として,控訴人第14準備書面において総合的な反論を主張するに至った旨主張する。しかし,乙32号証及び乙33号証は,原審において被控訴人から提出された分析結果報告書であり,また,乙73号証及び乙74号証は,平成27年12月21日の口頭弁論期日において提出された分析結果報告書であることに加え,上記各書証の内容等を考慮すれば,控訴人が主張する各事実について控訴人が確信するに至らなかったとしても,より早期の段階で,本件追加主張及び証拠(控訴人177ないし187)の提出をすることができたものと認められる。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。

 そして,本件追加主張及び証拠(甲177ないし187)について審理をすることになれば,被控訴人の反論を要するとともに,EPMA分析等に関し,さらなる分析をするなどの追加の書証提出等が必要となり,審理を継続する必要があることは容易に推測することができ,このような手続を行わないままに本件の審理を終結することはできないといわざるを得ないから,本件追加主張及び証拠(甲177ないし187)の提出は,本件訴訟の完結を遅延させることも明らかである。

 したがって,控訴人の本件追加主張及び証拠(甲177ないし187)の提出は,時機に後れて提出された攻撃防御方法として却下することが相当である。

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