FRANCE破毀院が、自己の出自を知らされない権利を認めず
DALLOZの学生向け記事Le droit de ne pas connaître ses origines : la Cour de cassation refuse !によれば、フランス破毀院2016年3月31日判決は、自己の生物学上の親を知りたくないのに、出生証明書の全部謄本に記載されていたため、権利が侵害されたとして損害賠償を求めた事件において、原告の請求を棄却した原判決を支持した。
この事件、2006年に出生証明書の全部謄本を請求して交付されたところ、それには1966年に« légitimation adoptive »と呼ばれていた制度により養子となったことが記載されていたというのである。
« légitimation adoptive »とは、日本の特別養子制度のように実親子関係を切断する効果を持ち、養親子関係を嫡出なものとするもので、1939年のデクレ・ロワで導入された。主として親のない子や捨てられた子と子のないカップルとを結びつけるものだが、その養子縁組の事実は出生証明書の余白に記載される。
そして、1966年7月11日の法律によりこの« légitimation adoptive »は廃止され、新たに完全養子縁組 adoption plénière を導入した。この制度の下では、元の親子関係については一切記載されないものとなった。
本件原告の養子縁組は1966年4月のことで、まだ« légitimation adoptive »の下であったが、1999年5月11日の身分証書に関する一般指針においては、生物学的な実親の完全性を保護するために、« légitimation adoptive »による養子に対して出生証明書の全部謄本を交付することを禁じ、その請求があれば共和国検事に通知するよう規定されていた。
Instruction générale relative à l'état civil du 11 mai 1999
ところが身分証書管理官はこれを見誤り、養子の請求に応じて出生証明書の全部謄本を渡してしまったので、今回のようなこととなったわけである。
原告は上記の指針に反することを持って過失責任があるとして損害賠償を求めたが、破毀院は、指針は規範ではないとして、知りたくなかった養子縁組の事実を知らされたことによる損害賠償請求を否定した。
特殊フランス法的な中での事例であったが、出自を知る権利・知らされない権利といった問題に一石を投じる事例ではある。
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