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2015/11/21

jugement:民訴教材・請求異議、即時確定の利益なし等

東京地判平成27年5月28日判決全文PDF

なかなか興味深い事例と判断である。

事案は比較的単純で、Yが外国メディアXに記者として雇われたが、記者としての適性がないとしてXから解雇された。そこでYは従業員たる地位の確認と未払い賃金と今後の賃金の支払いを求めて訴え提起し、前訴一審判決では原告Yの請求を認容した。特に賃金支払は終期を付けずに将来分も認容した。

その後、XとYとは代理人が和解協議に入って、Y代理人は記者にこだわらずに復職ができれば良いと述べたが、後にYの意向で記者職への復帰を求める立場に変わった。
P1070165

その結果、Xは復職の交渉はできないとしつつ、復職したければその意思を書面で提出しろといい、Yは記者職への復職が保障されないのであればそのような書面は出せないとした。

その後、前訴一審判決は控訴棄却により確定した。その直後、XはYにその確定日までの未払い賃金を一括支払いしたが、XはYに対して復職のための書面提出に応じないことをもって解雇事由にあたるとして、再度の解雇を通告し、今回の訴えを提起した。

その請求は、前訴判決の賃金支払命令についての請求異議と、XY間の雇用契約不存在確認、支払い済みの賃金のうち不当利得部分の返還、そして予備的に、第二次解雇が無効だとすればYを記者職以外での復職を命じる権限があることの確認請求である。

さて裁判所はどう判断したか?

第二次解雇も無効であるという判断だったが、その上で上記各請求についてはどういう結論を出したであろうか?

まず簡単なところから、請求異議については、解雇が無効であるので、既に支払った部分について弁済による消滅が認められるので、その点は認め、それ以外、すなわち前訴控訴審判決後から将来にかけての部分は棄却した。

なお、第二次解雇が無効だという判断もなかなか興味深く、復職のための書面提出に応じないことを解雇事由とするのは巧妙だが、XはそもそもYを記者職に復職させないという立場にあり、Yも記者職での復職を求めていたわけであるから、そのような立場の違いを残したまま、復職に応じる旨の書面を出せというのは使用者としての指揮命令の範囲には入らないという。従ってそのような要求に従う義務はYに無く、従わなくても解雇事由には当たらないというのである。

そして、雇用契約不存在確認については当然ながら棄却である。

問題は次の予備的請求の部分で、解雇が無効なら、記者職以外での復職を命じる権限があることの確認というのだが、これについて裁判所は以下のように判示した。

本件権利は,これを行使することにより原告と被告との間の法律関係を変動させる効果を生じさせるものであるが,いまだ行使されておらず,将来行使されるか否かも現在は明らかでない。また,原告が本件権利を有していても本件権利の行使が権利の濫用に当たる場合はその効力を生じないことから明らかなように,本件権利の存否を確定することによって将来本件権利が行使されたときの法律関係が明確になるということもできない。そうすると,本件権利を巡る紛争は,原告において,本件権利を行使した後,これにより生じた法律効果を前提として給付や確認の訴えを提起することによって解決するのが適切であり,行使されるか否かも明らかでない現時点において,本件権利それ自体の存在の確認を求める訴えは,即時確定の利益を欠くというべきである。

なかなか興味深い。
ところが、次の部分はやや疑問を感じないでもない。

これに対し,原告は,被告が原告の配置転換命令権(本件権利)を否定して,記者職以外の職務に就くことについての交渉に応じないという態度をとっているから,本件権利の存否について判決をすることが紛争の解決に有効適切である旨主張する。

 しかしながら,前記1(6)において説示したとおり,原告が被告にした交渉の提案(本件提案)は,飽くまで和解協議の提案にすぎず,原告が本件権利を有していたとしても,被告が交渉に応じなければならないということにはならないのであるから,本件権利の存否を確認することが,復職の交渉を巡って原告と被告との間に現に存する紛争の解決に有効であるということはできない。

ここでは、配置転換命令権の存在をYが認めていないから、Xには利益があるという主張に対して、Yには和解協議に応じる義務などないから、その確認は復職交渉をめぐる争いの解決に有効とは言えないというのが裁判所の答えである。

しかし、Yが和解協議に応じる義務などないというのは良いとして、それとは別に、Xの配置転換命令権の存在をYは否定しているのではないか。だとすれば、現在の紛争の解決に有用でないとは言い切れないはずである。

ただ、それでも将来の配置転換命令権行使とその結果生じる紛争が起こってからでないと、裁判には適さないという判断はあり得るところと解することもできる。

というわけで、ここは議論のあり得るところだが、まだ起こっていない紛争について先んじて判断をしても無駄になるかもしれないというのが正当であろう。
従って訴えの利益無しとした判決支持。

反訴関係については省略。

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