Dallozによる民法ってこんなもの
赤い法令集で有名なフランスのダローズ社だが、フェイスブックページにフランスの民法Droit civilを端的にまとめた絵を掲載していたので、これを引用する。
極めて端的にまとめられていて面白いとともに、日本人から見る民法ってこんなものという感覚とズレがあるので、その点でも興味深い。
多分、専門家の先生方もご賛同いただけると思うが、日本の民法の分け方では、家族法とか、親族相続といって一括されそうなところが3つにわかれているところが興味深い。
Droit des personnesとDroit de la famille、そしてDroit patrimonialである。
そもそも、Droit des personnesの中で大きな部分を占める国籍とか戸籍の規律は、少なくとも前者は民法の範囲に入るとは思われていないだろうし、能力(制限能力)の部分は、日本法では総則と家族法とで分裂している。
また、 Droit patrimonialという概念は日本法にはなく、翻訳がしにくい。Régimes matrimoniauxは夫婦財産制とされているが、フランス法のその概念はより幅広いイメージがある。日本の夫婦財産制の規律と相続法とを並列的に並べることには、日本人には違和感があるだろう。
そして、日本の民法の体系では、おそらく不法行為法が独立して扱われることだろうが、フランス法のこの図には影も形もない。いや、正確にはresponsabiliteの中に入っているので、一応は見えるのだが。
responsabilitéには délictuelleのみならず contractuelleも入るので、日本民法の709条以下だけを指しているわけではない。
大体obligationではなく債権法と言っているあたりで、翻訳に躊躇を感じるし、フランス人にも日本法の説明がわかりにくくなる。つい一昨日も、フランスの比較法をやっているという学生に、日本では債務法というのを債権法という名称でまとめていると言って、混乱させてしまった。まあ、大したことではないが。
このように日本民法から見ると、違和感があるフランス民法だし、なんとなく古色蒼然のような感じを持つかもしれない。
しかし、フランス民法典には既に電子契約は取り入れられているし、生殖医療の問題も取り入れられているし、それ以前にプライバシーの権利は随分前から成文化されているし、同性婚も正式に位置づけられている。死に対する自己決定権も既に規定があり、今はそれを更に強化するかどうかの法案が審議中である。
フランス法研究者には周知のことだが、基本法典であってもどんどん改正して行くのがフランス流である。
この傾向はさらに、EU指令が活発に出されることと、欧州司法裁判所や欧州人権裁判所の判決によりフランスの制度が条約違反だとされる可能性があることにより、加速されていると言える。実際に条約違反とされた場合のみならず、その影にはおそらく条約を意識しての国内裁判での解釈や立法が進められている。
このダイナミズムも、極めて興味深いものである。
さて、冒頭のダローズ社の出版物だが、今年の民法典Code civilには、フランス契約法の大改正オルドナンス草案の逐条解説が付録で付いている。
それと、ネットを探して面白いものを見つけた。
Code civil français en langue arabe (Edition En Langue Arabe)
私の見間違いでなければ、アラビア語バージョンのフランス民法典である。ただし、2012年ということなので、たまたま出したことがあるというレベルのようだが。
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