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2015/08/27

decision:消費者庁の措置命令に効力停止決定

例の断熱フィルムの優良誤認に対する措置命令に対する執行停止命令である。

東京地決平成27年4月20日PDF決定全文

事案は、窓に貼る断熱フィルムが効果的だという宣伝について、科学的に実証されていないので、景表法違反であることを一般消費者に周知徹底せよという措置命令が出されたところ、被処分会社がこれに対する取消訴訟を提起するとともに、執行停止を申し立てたというもので、裁判所はこれを認容した。

争点は3つで、執行停止が「重大な損害を避けるため緊急の必要がある」といえるか、また逆に執行停止が「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある」といえるか、そして「本案について理由がないとみえるとき」に該当するかである。

第一の「重大な損害を避けるため緊急の必要がある」といえるかについては、被処分会社が本件商品たる断熱フィルムの売上げに相当程度依存し、特に子会社は措置命令を実施すれば倒産するかもしれない点で、重大な損害を避ける必要が認められるとした。
現に本件措置命令が報じられると、「本件商品に関するほとんど全ての取引がキャンセルされ,新規受注も全く得られなくなっており,取引先事業者やエンドユーザーから多数の苦情や返金の要求を受け,インターネット等において,本件商品は断熱効果が全くない偽装品であり,大学や省庁も騙されたといった風評」が広がっているという。その上、親会社の他の商品の取引にも影響を及ぼしている。

他方、措置命令は一般消費者の利益を実現するためのものであり、これと処分の違法性が明らかでない段階で被処分会社の損害を回避するために効力を停止することとは緊張関係に立つと指摘している。
しかしこの点については、措置命令が報じられたことで一般消費者に周知され、また措置命令を取り消すわけではないのでその公表も継続できるし、一般消費者や被処分会社の取引先にも処分の存在は知られるので、一般消費者の利益を保護することが大きく損なわれるわけではないという。

また逆に、効力を停止しても損害を避ける役には立たないのではないかという疑問についても言及し、被処分会社が反論の記者会見をしていることや、処分の帰趨が明らかになれば取引を再開する準備も進められていることなどから、効力停止しても回復しがたい損害は発生するから無意味だとまではいえず、少なくとも措置命令の内容を被処分会社が実行した場合のダメージよりは損害が少ないとしている。

 #この点の判示は、一般的な行政処分の効果と法的な効力との関係を考えるにあたって参考となるものである。
 ただし、まじめに考えると袋小路に陥りそうな論点でもある。

第二の措置命令の効力停止が公益を害するかどうかについては、上記の「他方」の部分を繰り返して、措置命令効力停止によっても消費者の一般的利益が害されるとは言えないとし、また最後の「本案について理由がない」と見えるかどうかも、現段階では分からないとした。

効力停止決定の評価としては、当初、批判的な見解が多かったし、私自身もそのように感じていたところではあるが、被処分会社が措置命令の内容を自ら実現することによる損害の大きさと、他方で措置命令自体は取り消されずに存在することの事実上の効果とを考えると、本案裁判により措置命令の当否、引いては優良誤認との判断の当否に決着が付くまでは、被処分会社が自らの広告を景表法違反であると表示しなければならないというのはちょっと待てというのも、落とし所として妥当なところであろうと考えられる。

ただし、制度的には、例えば一定期間の猶予を与えて、提訴がなければ優良誤認だったと表示させるとか、そういう措置命令のやり方は予定されていないのであろう。
本決定は、現行制度の足りないところを浮き彫りにしているのではなかろうかという感想を抱く。

その点で、例えばドメイン名紛争のADRでは、裁判所に出訴がなされるまで執行はしないというのであり、出訴されればその結論に従うというわけで、一般消費者に対する効果については異なるものの、比較対照として興味深いものがある。

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