justice:裁判の公開は裁量事項?
備忘録として。
【オウム裁判】裁判公開の原則はどこへ…
江川紹子さんのルポルタージュはいつも参考になるし、勉強にもなる。
リバイバルしたオウム裁判では、元被告人たちが証人に立つのだが、それが死刑囚であったり服役を済ませた人であったりするので、公開法廷で証言させることに支障があるとして遮へい措置が用いられる。
彼女によれば、証人保護のための遮へい措置が濫用され、証人自身が望まない場合ですら用いられているという。
極めつけは、服役を終えた元受刑者の件。公開法廷への出廷を拒んだが故に、公判を取り消し、非公開での尋問を行ったようなのだ。ここ、少し事実関係が不明瞭だが。
オウム真理教の一連の事件で、最後の被告人となった高橋克也被告の裁判が、東京地裁で開かれている。2月3日の第12回公判で、開廷と同時に、主任弁護人が立ち上がって吠えた。2月6日に予定された裁判が、非公開となったことへの抗議だった。証人となる元信者が、公開法廷に出たくないと言い出したため、裁判所が検察側の要望を受けて、非公開を決めたのだ。この元信者は、教団諜報省の元次官で、假谷事件では被害者を車に引き込むなどした実行犯。先月26日にはVX殺人事件の証人として出廷し、各事件の状況のほか、自らの教団内での地位などをかなり饒舌に語った。その際、遮蔽板で姿が傍聴人から見えないようにしてあり、メディアの報道も名前は出さないなど、すでに服役を終えた彼に対して十分な配慮がなされた。にもかかわらず、同様の形で假谷事件を証言するのは、嫌だというのである。しかも法廷では、なぜ今回は嫌だというのか、その理由すら明らかにされなかった。それどころか、弁護人の抗議で初めて、私は公判が取り消しになったことや、それが証人が出廷をいやがっているためだと知った。
想像だが、上記の措置の根拠条文は刑訴法158条であろう。ついでに159条も参照。
第百五十八条 裁判所は、証人の重要性、年齢、職業、健康状態その他の事情と事案の軽重とを考慮した上、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、必要と認めるときは、裁判所外にこれを召喚し、又はその現在場所でこれを尋問することができる。2 前項の場合には、裁判所は、あらかじめ、検察官、被告人及び弁護人に、尋問事項を知る機会を与えなければならない。
3 検察官、被告人又は弁護人は、前項の尋問事項に附加して、必要な事項の尋問を請求することができる。
第百五十九条 裁判所は、検察官、被告人又は弁護人が前条の証人尋問に立ち会わなかつたときは、立ち会わなかつた者に、証人の供述の内容を知る機会を与えなければならない。
2 前項の証人の供述が被告人に予期しなかつた著しい不利益なものである場合には、被告人又は弁護人は、更に必要な事項の尋問を請求することができる。
3 裁判所は、前項の請求を理由がないものと認めるときは、これを却下することができる。
裁判所外での尋問は公判廷で行われるわけではないので、公開原則は適用にならなくなる。
もっとも、裁判の公開は憲法上の原則なので、それを潜脱するようなことになってはならない。従って、158条に基づくと言っても全くの自由裁量ということにはならない。むしろ、最大限の謙抑性をもって、必要やむを得ない場合に限って認められるべきものである。
江川さんの怒りは十分理由のあることだ。
ただ、残念ながら、裁判の公開が傍聴人の権利を定めたものとは考えられていない。あくまで裁判の適正を手続的に保障するための基本原則であり、その意味では公開原則を後退させても真実発見を追求することはあり得よう。
それに、江川さんが引用している証人義務に関する諸規定も、確かに証言を得るために強制手段は用意されている。しかし、証人の口を開かせ、真実を語らせるのに、刑罰の威嚇や勾引による強制が有用かといえば、それはそれで限界のあるところだ。人間、強制をしても言うことを聞くわけではなく、無理やりやらせれば嘘やその場しのぎで言い逃れようとするということは、刑事裁判官よりも江川さんの方がよく知っている経験則ではないだろうか?
裁判というのは、私事(プライベート)を公的な場に引き出すという意味で、アンビバレントな営みである。また情報の扱いという意味で、真実と虚偽、情報の質や量など、力任せではうまくいかない作業でもある。それに裁判官・検察官・被告人・弁護人、そして被害者・被害者代理人の各訴訟主体と、傍聴人との立場の違いも否定出来ないところであり、基本は当事者と裁判所の都合が最優先とならざるを得ない。
別に裁判所の肩を持つ義理はないし、想像と推測の上の話だが、まあやむを得ない話なのかなとは思う。
なお、裁判の公開については以下の文献が必読。
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