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2014/12/17

media:上告が退けられたとの報道が意味不明

メディアは分かりやすい報道を心がけていて、必ずしも法律用語の正確性にはこだわらないが、区別すべき点を区別しないために事実を報じる役に立たないばかりか、ミス・リーディングな場合もある。ときにより、記者やデスクの無理解が顕になることにもつながる。

例えば、先ごろ最高裁の判断が出たと報じられた携帯電話契約の二年縛りが消費者契約法9条等により無効となるかどうかが争われた事案、最高裁は上告を退けたのだが、その報道が各社によりマチマチだ。

(朝日)
最高裁は「条項は有効」とする判断を示した。第一小法廷(桜井龍子裁判長)が11日付の決定で、「条項の使用を差し止めるべきだ」と訴えた消費者団体側の上告を退けた。

(読売)
最高裁第1小法廷(桜井龍子裁判長)は11日付の決定で原告の消費者団体側の上告を退けた。

(毎日)
携帯電話2年縛り:解約金条項は適法 消費者側の上告棄却
 携帯電話3社が設定する2年契約の割引プランを途中解約した場合に解約金を支払うとする契約条項が、消費者契約法に違反するかが争われた3件の訴訟で、最高裁第1小法廷(桜井龍子裁判長)は11日付で、契約条項は適法とした2審・大阪高裁判決を支持し、利用者側の上告を棄却した。

(産経)
最高裁第1小法廷(桜井龍子裁判長)は15日までに原告の消費者団体側の上告を受理しない決定をした。いずれの条項も適法とした二審大阪高裁判決が確定した。決定は11日付。

(時事)
最高裁第1小法廷(桜井龍子裁判長)は11日付で、団体の上告を受理しない決定をした。

(日経)
最高裁第1小法廷(桜井龍子裁判長)は15日までに、消費者団体側の上告を退ける決定をした。

産経と時事によれば、明らかに上告不受理決定ということになる。

しかし日経、朝日、読売は、どうやら裁判の形式が「決定」らしいということは見えるが、はっきりはしない。日常用語では「決定」という言葉を幅広く使うので、「判決」と区別した用法かどうか定かではないからだ。

これに対して毎日は、「上告棄却」とある。これでは、上告受理申立てに対して受理した上で、判決で上告を棄却したものと理解できる。
加えて、毎日だけは、解約金条項を適法とした原判決を「支持した」とも書かれている。
ここまで来ると、どうやら毎日の記者とデスクは、制度を理解していないのではないかという疑いも出てくる。

民事訴訟で、高裁判決に対して最高裁に不服を申し立てると、そのルートは特別上告、通常上告(権利上告)、上告受理申立ての3種類がある。

特別上告は高裁が上告審でさらに憲法問題を争いたい時のものなので、別として、普通は通常上告(312条)か上告受理申立て(318条)となる。
312条は、憲法違反を問う場合と、手続的な違法があると主張する場合だ。この場合は上告審が原則として判決で、上告棄却または上告認容(原判決破棄で差戻しか自判)という判断を下す。

また、318条は、判例違反その他重大な法令解釈適用の誤りを問うもので、最高裁はまず上告を受理するかどうかを審理判断し、受理しないとすれば上告不受理決定、受理するとなれば通常上告と同様に上告棄却または上告認容(原判決破棄で差戻しか自判)という判断を下す。

つまり、最高裁に不服申立てをした場合に、それが退けられたという中には、上告不受理決定と上告棄却の二つがあるわけだ。この他に上告の要件を欠いているのに上告した場合(例えば勝訴したのになお上告したとか、期間を徒過したとか)には上告却下決定があり、312条の要件を欠いていることが明らかな場合も上告棄却決定があり、ややこしいが、ともあれ適法な上告・上告受理申立てが退けられたときは、上告不受理決定か上告棄却判決かのいずれかだ。

ところが報道では、この点が曖昧になっていることが多く、事実を報じる役に立たない。

その上、上告棄却判決の場合は原判決を支持する意味があるが、上告不受理決定の場合は原判決を支持するのではなく原判決に対する不服を審理しないということを意味するにすぎない。いわばマスコミ用語的には門前払いなのだ。
もし産経と時事の上告不受理決定が正しいすると、毎日の「契約条項は適法とした2審・大阪高裁判決を支持し」との記載は、制度的に誤りというべきである。結果的に原判決が確定するわけだから、原判決を支持したのと同じだという気持ちは分かるが、最高裁が二年縛りと解約金を定めた条項について「適法」と判断したわけではないので、そのような意味に捉えられるこの記述はやはり誤りというべきだ。

そういうわけで、産経と時事が正しいのか、それとも毎日が正しいのか分からないし、朝日、読売、日経では、そのいずれともつかない曖昧な報道で、判別できず、報道としての役割を果たしていないと思うのだ。

追記:朝日の別の報道では「最高裁は「条項は有効」とする判断を示した。」と記載しており、その他の点は上告を退けるという曖昧な記載にとどまっている。毎日陣営に近寄った記載である。

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