GPS端末を無断で取り付ける捜査手法の適法性
表記の問題が直接問われた訴えが報じられている。
訴状などによると、男性は三月上旬、市内の駐車場に止めていた自家用車の下部に、固定用の磁石を巻き付けたプラスチックケースが取り付けられているのを発見。中に大手警備会社が個人や法人向けに貸し出している携帯式GPS端末が入っていた。相談を受けた弁護士が、愛知県弁護士会を通じ警備会社に端末の登録番号を照会したところ、契約先は愛知県警の刑事総務課と判明。男性は以前に車体下部を確認した記憶などから、最長で一週間ほど端末が無断設置され、訪問先や移動経路が監視されていた可能性があると主張している。
この件に関する格好の参考文献が、情報セキュリティ大学院大学の湯淺墾道教授の以下の論文だ。
位置情報の法的性質--United States v. Jones判決を手がかりに--
これは、アメリカの連邦最高裁判所が2012年に下したUnited States v. Jones判決を紹介し、その意義を明らかにしたものである。
この判決は、ワシントンDCにおける麻薬捜査で私人の車にGPS端末を取り付けた行為の適法性が争われたもので、連邦最高裁判所が令状主義に反すると判断した。
興味深いことに、湯浅先生の分析によれば、法廷意見の考え方が18世紀の憲法の条項が前提としていた物や場所と言った存在に対する捜査の限界を、GPSのようなデジタル情報の利用による侵害行為にも類推するという「物アプローチ」を取るのに対して、補足意見の考え方がプライバシー保護という「人アプローチ」を取るという、基本的な考え方の違いがある。
その他の邦語参考文献として、以下のものが引用されている。
土屋眞一「捜査官がGPSにより公道を走る被疑者の車を監視することは、違法な捜索か? 最近のアメリカ合衆国連邦最高裁判決」判時2150号3頁
松前恵環「GPS技術と公共の場におけるプライバシー--米国の判例を素材として」法とコンピュータ 27 号(2009年)103-114 頁
松前恵環「位置情報技術とプライバシー--GPSによる追跡がもたらす法的課題を中心として」堀部政男編著『プライバシー・個人情報保護の新課題』商事法務(2010年)235-286頁
緑大輔「無令状捜索押収と適法性判断(1〜3)--憲法35条による権利保障--」修道法学28巻1号〜29巻1号
山名京子「科学捜査とプライバシーに関する一考察-1〜2 - アメリカ合衆国ビーパー(電子追跡装置)の判例を中心に」関西大学法学論集33巻6号〜34巻1号
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