France商事裁判所の特徴と問題点
フランスの商事裁判所は、一般民事を管轄する大審裁判所に対して例外裁判所と呼ばれ、労働審判所や社会保障裁判所、農事賃貸借同数裁判所などと仲間とされる。
しかし、例外の中でも例外なのが、他の例外裁判所は法律家としての裁判官と素人裁判官とが一緒になって審理する、参審制度をとっているのに対して、商事裁判所だけは、法律家としての裁判官が存在しない。
それでも商人間の紛争、商事に関する紛争を扱う分には問題はなく、上訴審で商事裁判所の判決が覆されるのはわずかに4%というから、いかに適正な判断をしているかが分かるという(この数字はジョエル・モネ教授の口頭によるもので、しかも母集団ははっきりしなかったので、数字の意味は必ずしも明らかではない)。
ところが、フランスの商事裁判所は倒産処理手続も担っている。
そうなると、商人が裁判官を務めるという制度には大きな問題があるとモネ教授はいう。
一つは複雑な倒産処理手続で、日本でも法的問題のるつぼとも称される手続であるから、法律素人の裁判官に本当に適正な判断ができるのかという問題。
もう一つは、商人は裁判官となっても自分の商売をやめるわけではない。すると、倒産処理手続で自分の競争相手の事件を担当するかもしれない。
その場合、企業の救済よりも清算させることで、自分の競争相手を消してしまう方に傾くというのである。
これがモネ教授の最も強調していた問題点なのだが、これには疑問はなくはない。
商事裁判所についても忌避は可能であろうし、利益相反が明らかな競争相手が当事者となった場合、日本であれば自ら裁判を回避することになるだろうが、フランスではそうではないのだろうか?
また、モネ教授によれば、商事裁判所の裁判官を商人ではなく法律専門家にしようという改革案が出るたびに、商事裁判所裁判官が総辞職するという脅しを行い、改革案を撤回させてきたという。
かつて日本でも、日本医師会の号令の下、保険医総辞退という一種の争議行為により、医療改革政策に反対したという事件があった。
そういった争議行為は、労働組合の専売特許ではないというのがフランスである。というより、労働組合が極めて強力で実行力も持っているということであろうか。
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