jugement:民訴教材・二重起訴禁止により却下された事例
福岡地判平成26年1月24日判時2226号46頁
囲みに紹介されている事案によれば、従業員が労務中の傷害で療養中にさらに身体的負荷の過重な業務の部署に配転され、うつ病を罹患し、休業を余儀なくされ、解雇されたため、その解雇無効を主張する訴えを2つ提起したというもので、後の訴えが先行する訴え(控訴審係属中)と同一だとして却下された。
先行する訴えは、解雇が無効であるとする労働契約上の地位確認、賃金支払い、そして配転が安全配慮義務に違反するという理由の債務不履行に基づく損害賠償請求である。
これに対して本件は、配転が無効であるとして配転前のポストに関する労働契約上の地位確認、そして配転が安全配慮義務に反するとしての債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求というのである。
これに対して裁判所は、労働契約上の地位確認の対象が異なっているように見えるが、いずれも解雇の無効を前提とするので、前訴後訴は同一だと判示した。
また就労請求権を有さない労働者が具体的なポストの地位確認を求める訴えの利益はないし、解雇無効+配転後のポストによる就労義務不存在確認という構成をするとしても解雇無効は過去の法律関係の確認だから訴えの利益がなく、配転後のポストの就労義務の不存在に争いはないからやはり訴えの利益はないと判示された。
損害賠償請求に関しても、債務不履行に基づく損害賠償部分について主張がほぼ重なる以上は二重起訴禁止に触れるとし、不法行為に基づく損害賠償請求については、「同一の社会生活関係に基づいて同一の目的を実現するための請求」であり、実体法上の請求権は2つ成立しうるとしても二重給付は許されず、重複審理や矛盾判断を避けることと二重応訴負担を避ける要請は働くし、先行訴訟で選択的追加的併合を求める方法もあるのだからという理由で、別訴提起を権利濫用ないし信義則違反だとする。
この最後の部分は、二重起訴禁止に触れると言わないで信義則違反だとする限りにおいて、旧訴訟物理論にとどまっているが、実質的には全く新訴訟物理論の提案する解決そのものと評価できる。
判決の具体的妥当性としては、争いの余地は乏しいが、理論的には、もう新訴訟物理論の採用に踏み切ったら判決書くのも楽になるんじゃないかと、そんな印象である。
| 固定リンク
「裁判例」カテゴリの記事
- Arret:共通義務確認訴訟では過失相殺が問題になる事案でも支配性に欠けるものではないとされた事例(2024.03.12)
- Arret:欧州人権裁判所がフランスに対し、破毀院判事3名の利益相反で公正な裁判を受ける権利を侵害したと有責判決(2024.01.17)
- jugement:大川原化工機の冤罪事件に国賠請求認容判決(2023.12.27)
- arret:オノアクト贈収賄事件に高裁も有罪判決(2023.10.24)
- arret: 婚姻費用分担請求に関する最高裁の判断例(2023.08.08)
コメント