jugement:検索からの削除請求が棄却された事例
京都地判平成26年8月7日
盗撮容疑で執行猶予付きの有罪判決を下された男性が、検索すると逮捕事実が出てくるのは名誉毀損だとして検索結果の表示中止や慰謝料など約1100万円を求めた訴訟で、栂村明剛裁判長は「原告の逮捕事実は社会的関心も高く、公共の利害に関する事実。原告の人格権が侵害されているとは言えない」として、男性の請求を棄却した。
記事の中では、グーグルのサジェスト機能を名誉毀損だとして訴えて請求棄却になった例に言及されているが、それとは事案と利益状況が異なる。
当然ながら、海外事例ではグーグルに対するEU裁判所の忘れられる権利訴訟が想起される。
そして、日本法の中で考えるならば、公表された前科情報についての公開ないし開示を違法とした最高裁判決がいくつか思い浮かぶ。
ひとつは、弁護士会照会により京都の区役所が前科情報を開示したことが不法行為とされた事例であり、もうひとつは沖縄の陪審裁判に関する伊佐千尋のノンフィクション『逆転』で、本人が特定できる形で前科が公表されたことがプライバシー侵害とされた事例である。
いずれも検索エンジンに関する事例ではないという点で射程が及ぶものではないが、その考え方は上記の問題を考える上で参考とされる必要がある。
この判決の一般論は以下のとおり。
前科等にかかわる事実については、これを公表されない利益が法的保護に値する場合があると同時に、その公表が許されるべき場合もあるのであって、ある者の前科等にかかわる事実を実名を使用して著作物で公表したことが不法行為を構成するか否かは、その者のその後の生活状況のみならず、事件それ自体の歴史的又は社会的な意義、その当事者の重要性、その者の社会的活動及びその影響力について、その著作物の目的、性格等に照らした実名使用の意義及び必要性をも併せて判断すべきもので、その結果、前科等にかかわる事実を公表されない法的利益が優越するとされる場合には、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができるものといわなければならない。
少なくとも盗撮で捕まった人やその事実が「歴史的又は社会的な意義、その当事者の重要性、その者の社会的活動及びその影響力」などに照らして氏名も含めて公表されるべきというのはよっぽどのことであり、例えばミラーマンとして有名な評論家とか、判事補で偽電話をかけた奴とか、あるいは首相のくせに賄賂をもらって飛行機買えと口聞いたのとか、そういうレベルである。
他方で検索エンジンの機能としても、選択的に削除することは技術的にも難しいことではないので、上記記事でヤフー側が主張している「検索サイトは社会インフラの一つ。検索結果の表示が違法なら、新聞の縮刷版を置いている図書館も違法になる」というののうちの前半は全く的外れだ。後半は、確かに新聞の縮刷版も同様の問題性があるが、情報伝播力という点では全く違うので、これまた合理的な反論とはいえない。
ということで、請求棄却の結論は不当である。
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