jugement:「死ね」と書いたメールの民事責任
東京地判平成25年9月3日WLJ(平成24(ワ)14048号)は興味深い例だ。
フェイスブックや、かつてのMIXIなど、いわゆる典型的なSNSは出会い系的な機能を持っているが、そこで出会った男女が幸福を手に入れるか、そうならないかは、実社会での出会いと同様に、時の運である。
そして上記判決の原告男性は、SNSで出会った女性から、「死ね」などと執拗に原告を誹謗中傷する内容のメール等の送信を受け、電話も繰り返し受けたという。原告主張事実を引用しよう。
被告は,次のアないしエ記載のとおり,原告に対する誹謗中傷行為を執拗に行い,その回数は,100回を優に超えており,証拠が現存しているだけでも,84回もの電話をするなどした。ア 被告は,平成23年12月15日,原告に対し,「あなたがいかに人の心を踏みにじり馬鹿にしていたかが今になってようやく分かりました。」「どこまで最低な人間なの」「あなたのようなクズは,さっさと今回の震災でも本当に死ねば良かったのに。早くあなたみたいな悪がこの世からいなくなるのを祈ります。」などの内容の△△でのメッセージないしメールを複数回送信した。
イ 被告は,平成23年12月16日,原告に対し,「死ね」などの内容のメールを合計42回,「謝れ」「この世から消えてなくなってくれた方がいい。」などのメールを7回を送信し,「X死ね」などの△△でのメッセージを送信した。ウ 被告は,平成24年1月15日,原告に対し,「死ね」「詐欺師」などのメールを8回送信した。
エ 被告は,平成24年1月28日,原告に対し,「X死ね」という○○でのコメントを掲載した。また,原告の知人らに対しても,同趣旨のメッセージを送信した。
これにたまりかねて、不法行為だとして損害賠償を求める訴えを提起した。
さて、結果はどうだったか?
上記判決によれば、男性と女性とはSNSで知りあい、その後、「軽井沢で」一回、性交渉を持った。
ところが、その旅行から帰ってから、男性は女性を避けるようになったという。
そこで、電話やメールで接触を試み、その不実な態度をなじるなどした。判決が認定する経緯は、ちょっと長くなるが、以下のとおり。
ア 平成23年12月15日のメール(複数回)
(ア) 「あなたがいかに人の心を踏みにじり馬鹿にしていたかが今になってようやくよく分かりました。私を騙してただ単にやり捨てようとするために近づいてきたこと,旅行から帰りちょうどいちゃもんつけて別れるにいいネタだと思い,思いこみもさながらに責めてきたこと。」
(中略)
「人の心に対し,そんな風にばかり接していればいつかそれは必ず自分に帰ってきます。私に責めるのも憎むのも嫌いだと言ったけれど,あなた自身が一番そうしているじゃない。人の弱みにつけこみ最悪なことをしてくれました。」
(中略)
「あなた自身こんなこと繰り返してばかりいたら全部自分の大切なもの壊すことになりかねませんよ。気をつけて。」(甲1)(イ) 「無視してるわけ。どこまで最低な人間なの。うわべだけ飾ってみても人の本性というものはメッキ剥がれてすぐに見破られてしまうだけなのに。
(中略)
「よくまああれだけ大変な時にそんな人を騙し欺くようなことが出来たものです。」(甲2)(ウ) 「あなたのようなクズは,さっさと今回の震災でも本当に死ねば良かったのに。早くあなたみたいな悪がこの世からいなくなるのを祈ります。」(甲2)
(エ) 「男のくせに別の人間に電話させて恥ずかしいと思わないわけ?」(甲2)
イ 平成23年12月16日のメールないし△△でのメッセージ
(ア) 本文なしの表題「死ね」などの内容のメールを合計42回(甲3)(イ) 「謝れ」「この世から消えてなくなってくれた方がいい。」などのメールを7回。(甲4)
(ウ) 「X死ね」などの△△でのメッセージを送信。(甲5)
ウ 平成24年1月15日のメールないし△△でのメッセージ
「死ね」「詐欺師」などの内容のメールを合計8回
そのほか次のように話し合いを求める内容のものもある。
「私にメールされたりなにされたり嫌でしょう。だったら正直にはっきり言いなさいよ。」
「いろいろ言ってごめんなさい。あなたは詐欺師なんかではなかったよね。幸せそうで良かったです。もう」
「何も言わないから安心してね。」
「大好きな人とこれからもお幸せに。さようなら。」
(甲6,甲16の3,4,5)エ 平成24年1月16日のメール
「死ね」(甲16の5)オ 平成24年1月28日の○○でのコメント,
A名で「X死ね」(甲7)カ 平成24年3月20日のメール
「あなたは私に死んでほしいということなんですか?」
「あれだけの怒りと執着は普通ではないよね。」
(甲16の5)キ 時期は,特定できないが,被告から原告の携帯電話に対する多数回電話をかける行為
これに対して男性の方が第三者を介して賠償を求めるなどしたら、「死ね」という表現はやめたということである。
また、他方で男性の方は、「原告に対する誹謗中傷行為を受けていた期間においても,旅行,遊興,スポーツなど頻繁に行い,これをSNSにおいて公開するなどしている」と認定されており、「私生活上,具体的に支障を来したと認めるに足りる証拠はない」と評価されている。
以上により、判決は以下のように評価し、請求を棄却した。
原告に対する誹謗中傷行為は,原告は,被告と一度の性交渉を持った直後に関係を断絶するなどの不誠実な行動を取った原告に対する批判ないし反省を求めるものというべきであって,他方で,原告が被告のかかる批判に対し,自ら十分にこれに対応したものとはいえないことからすると,原告に対する誹謗中傷行為の内容や頻度等を総合的に考慮しても,原告において,なお,甘受すべきものであって,違法性があるとまではいえない。
判決文は、一定の心証を持った裁判官が書くので、判決文の事実認定や法的評価を読めば、たいていは結論が支持できるものになっている。従って判決文を読んだからといって事件の真の事実関係を分かったと思うことは、場合によっては間違いかもしれない。
という留保をした上で、上記判決の限りでは、至極常識的な判断と納得の行くものに思われるが、いかがであろうか?
まかり間違えれば、ストーカー規制法の適用を受けてもおかしくなさそうな事例ではあるが、民事裁判が正義を実現したというところであろう。
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