action:民事訴訟の手数料は提訴の阻害要因か
「高額手数料が障害」4割 弁護士調査 民事訴訟「利用伸びぬ一因」
産経新聞が伝えるこのニュース、東京の三会が弁護士にアンケート調査をして明らかにした結果に基づいている。
民事訴訟で「高額な手数料が提訴の障害となった」と感じている弁護士の割合が約38%に上ることが、東京の3弁護士会が行った初の調査で分かった。提訴を断念したケースもあり、専門家は「諸外国と比べて高すぎる手数料が、民事訴訟の利用が伸びない一因となっている」と指摘する。
訴え提起の手数料が提訴抑制効果を持つことは、異論の余地のないところである。というよりも、ただならやってみるという程度の濫用的な訴え提起を防止することも手数料制度の趣旨であるから、「提訴の障害」となっていない方がおかしい。
控訴・上告がより高い手数料を設けていることも、上訴の抑制が目的なので、上記の調査結果は所期の目標を達成していると積極的な結論すら可能なところである。
問題は、それ以上に、必要な訴え提起も抑制されているかどうか、阻害要因となっているかどうかということだが、これは「過去3年間に手数料が高額であることが提訴の障害になったことがあるか」との質問への答えでは分からない。
必要な訴訟かどうかということは、言ってもしょうがないことかもしれないが、それ以外にも以下のような検討要素がある。
まず訴訟費用は弁護士費用と異なり敗訴者負担となっているので、勝てば相手方から回収できる。実際には利用されていないといっても、それは計算方法も改善されている現在、回収する手間より必要経費として飲み込んだ方が合理的だという程度の額だということでもある。
次に、高額といえは訴え提起の手数料より弁護士費用である。100億円の訴額で1602万円も訴え提起の手数料がかかるとされているが、弁護士費用は億単位なのではあるまいか? もちろん手数料のような基準がない世界であるから、こうだと数字を上げるのは困難だが、特に格安で受けるという性質の訴えでない限り、8%とか4%とかというレベルの弁護士費用が標準的だとすると100億円なら4億〜8億となる。ま、そんなにとらないよと言われそうではあるが、訴えの内容によってはもっとかかることだってあり得る。
第三に訴訟救助と法律扶助の存在で、これまたその水準の低さが問題視されているが、理論的には手数料が提訴の阻害要因となって困るケースは所得水準に照らして手数料を支出することが困難な個人や零細企業である。そこをカバーする訴訟救助・法律扶助が整備される方が筋であり、巨額請求訴訟の手数料を安くすることではないように思う。
それにしたって1000万円単位で国に手数料を納めるのは納得行かないという思いもあろう。最大で数万円の定額制にするという外国の例は魅力的に映る。これでも昔よりはかなり安くしたのだし、それで裁判所のコスト以上に儲かっているわけでもないはずだが、やはり上記の提訴阻害要因となっている階層の扶助の拡大に力を入れるべきなのである。
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