France民法・財産法改正関連シンポ
ちなみに、フランス民法・財産法の改正草案は、テレ草案と呼ばれるもののほかに、カタラ草案と司法省草案(フランス語では Avant-projet de chancelierと呼んでいた)とがあり、シンポジウムはこれら2つの草案に対するテレ草案の内容説明ということになっていた。
日本の法制審議会で進められている民法財産法改正作業の中でも、これらは参照されている。
朝9時から17時半くらいまで、みっちり報告がされたので、細かい内容を沢山聞かされ、情報過多となったが、ネット上の草案や各種検討記事・論文などを参照しながら聞いていた。
印象に残っている中で大きな点を2つメモするなら、比較法droit comparéの重要性と法的安定性sécurité juridiqueの重要性である。
ここで比較法というのは、ドイツ法とイギリス法との比較であるが、EUや取引法の国際的調和が無視できない要請となっている以上、時代的に当然ということなのであろう。他方で、ヨーロッパ法に対するフランス法の影響力の重要性を強調する発言も多くの発表者から聞かれた。
伝統的には後者、つまり世界に対するフランス法の優位性ないし影響力から比較法の重要性が説かれることはあっても、フランス法の、特に民法典の立法論において外国法を参照する必要があるとは考えないというのがフランス人の思考様式だと、昔は習ったものだが、かなり様変わりというところではある。
このほか、現代化ももちろん重要なテーマである。
なにしろフランス革命直後のナポレオン法典を基本として残されていて、これに改正につぐ改正を重ねてきたものであるから、改正論点はたくさんある。紙媒体の時代から電子媒体の時代という環境変化は勿論だが、それだけでなく、民事責任のあり方も専門職の責任の特殊性が共通認識となったり、普通取引約款ないし附合契約と言われていた時代を経て不当条項規制が消費者法として取り入れられ、それが民法典の中にも取り入れられる必要性が説かれたりしている。この辺の状況は、日本も全く同様なので、当然同じようなことが議論されているわけである。
契約交渉段階における規律と不当な破棄に対するサンクションというのも、大学院時代の同級生の研究テーマであっただけに懐かしいテーマだが、テレ草案では重要な規律対象として取り上げられていた。
以下は雑感。
しかし、フランスでの学会、シンポジウム、研究集会、一般のセミナーなどでは、相変わらず発表者が一方的に立て板に水といった感じでしゃべり、聴衆はそれを一生懸命聞き、ノートをとる。時々、聴衆は聴衆同士で勝手に議論を始めたりもする。
発表にあたってレジュメや、ましてや原稿を配るといった行為は、去年と一昨年のトゥールーズでもなかったし、今回三週間のポアチエ滞在中に出席した研究会や講演会等でもついにお目にかからなかった。プロジェクタは完備されているが、スライドを用いるのも珍しい。今日のシンポでは、一人、スライドを使っていたが、その前の発表者が「私は電子的手段が使えないので・・・」と笑いを取っていたし、スライドソフトのトランジションをちょっと工夫しているだけで学生たちにはすごく受けていた。いかに珍しいかという証左であろう。5年前か、分野によっては10年前の日本というところか。
なお、20年前に留学していたときに、リヨンのクローズ先生の授業ではすでに電子媒体を使い、講義ノートは予め配布され、学生はそれを見てマーカーを引きながら講義を聞くというスタイルだったし、官僚のお友達が上院のシンポで報告するときについて行ったら、お前は日本人だから機械操作ができるだろうという無茶ぶりをされて、パワーポイントの操作係にされたが、プロジェクタに情報を送る画面切り替えが分からず失敗したとかの思い出がある。今のフランスの大学周りは、その当時にお付き合いがあった方々のレベルから見ても、ちょっとどうかと思うほどだ。しかしその中で話だけで情報を伝えるための技術は、つまり話し方は、上手だと認めざるをえない。
聴衆の方も、ノートは、教室にコンセントが完備されているところが少ないという事情もあろうが、パソコンでとっているのは比較的少数派で手書きノートを一生懸命とっている姿が見られる。パソコンを持ち込んでいるオジさんでも同様にノートは手書きであった。
また、学生たちは途中から集中力が切れたらしく、一生懸命パソコンでノートをとっていたと思えば、スマホで写真共有サイトを見たり、LINEみたいなチャットソフトで遊んだりし始める学生がちらほら見られた。ま、これはご愛嬌というところで。
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