Book:私は負けない by 村木厚子
村木厚子さんの体験談を中心に構成された本である。
彼女の体験談が語り風に描かれているところはもちろん読み応えがあるが、それ以外の部分もよい。
ところどころにはされまた江川紹子さんのコラム風解説、村木さんのご主人のインタビュー、村木さんと上村・元係長の二人を江川さんが聞き取る対談風のインタビュー、そして上村さんの被疑者ノートが収録されている。
これらから一貫して発せられているメッセージは、検察取調べにおける調書の取り方が供述者の供述内容を録取するという手続になっておらず、供述内容から検察のストーリーに適合するものを拾い上げて再構成する手続になっていることだ。
こうした問題は、この事件で新たに問題になったわけではなく、それこそロッキード事件やらリクルート事件やら、被疑者被告人の言い分がマスコミを通じて報じられる事件では決まって「検事の作文」という言葉が被疑者被告人側から述べられ、その一端が顕になってきたことだ。
さらに、この事件では前田検事(当時)によるフロッピーディスクの日付データの改ざんが明らかになって問題がヒートアップし、さすがの裁判所も検察の言うことは違うと納得したようだが、本の中に國井検事が塚部検事に送ったメールとして次のように書かれているのが極めて示唆的だ。
ブツを改竄するというのは聞いたことがないが、一般論として、言ってもいないことをPS(調書)にすることはよくある。証拠を作り上げたり、もみ消したりするという点では同じ。
遠藤国賠事件を思い出すと、「ブツを改竄するというのは聞いたことがない」というのも「ホントか?」と言わざるを得ないが、日々仕事をしている検事は自白調書を取る行為が証拠改竄と大差のない行為と自覚しつつ、でもやっているというわけである。
そういう態度は、その後のパソコン遠隔操作事件を見ても、検察だけの問題ではなく、警察の取り調べも同様というわけだ。
これを是正するのにはどうしたら良いか?
人質司法の是正や可視化も重要だが、それとは別に、調書自体の方式を定めるというのもひとつの方策ではないかと思う。
つまり、一人称でモノローグ風にした調書ではなく、被疑者との一問一答を忠実に記載した証人尋問記録のような調書に方式を改めるのである。このようにすることで検察のストーリーに合わせて取捨選択したイイトコどりの調書は作れなくなるであろう。
その上で、証拠説明書ないし捜査報告書として、検察官のモノローグによる取捨選択したストーリーをつければ、事件の全体像の分かりやすさは犠牲にならないし、その証拠価値も、被疑者被告人の陳述を検察がどう理解したかという正確な位置づけの上でなされる。
また全面可視化と違って、録音反訳をするのであれば、取調べには必ずICレコーダーを携帯するというだけであるから、全くコストはかからないと言ってよいであろう。
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