law:債務整理受任通知の効力
本日の民事法研究会では、債務整理受任通知がいかなる効力効果を持つかについて、2つの最上級審判決を対象とする民法と倒産法からの報告で、興味深いものであった。
一件目は東京高判平成24年9月26日判時2171号46頁。受任通知において過払い金がある場合は請求するという趣旨の記載が、過払い金債権の消滅時効に対して催告の効果を持つかどうかという問題である。
もう一件目は最二判平成24年10月19日集民 241号199頁、判時 2169号9頁で、こちらは受任通知が破産法上の否認権に関する支払停止となるかどうかという問題である。
一件目は、第一審が簡裁のため東京高裁が上告審として判断したもので、過払い金を厳密に特定していなくとも、過払い金返還債権についての支払いを求めたということで催告の効果があり、時効完成が6ヵ月伸びると判断された。
ここでは催告が要求されている趣旨によって解釈論的にはわかれるように思われる。
すなわち、催告が債務者に対して履行を促すという面があるがゆえに、6ヵ月の時効完成猶予期間を付与するのであれば、債権の特定は債務者に識別可能性を保障するものでなければならない。
しかし、催告が単に時効期間の延長のトリガーとなるだけであれば、催告といえるかどうかが問題であり、客観的にこの債権の催告といえる程度に特定されていればよい。
東京地裁の判断は前者のように読める要素があったが、東京高裁は後者の、この債権に対する催告と特定可能だというだけで足りるとするもののようである。
二件目は、債務整理の受任通知後に弁済したことが否認の対象となるかどうかが争われた事例で、債務者=破産者は地方公務員という給与所得者であった。受任通知は貸金業法上取立て禁止の効力を持つが、それを一般的に破産法上の支払停止とみなしてよいか、破産が予定されている場合や民事再生が予定されている場合、はたまた任意整理が予定されている場合によって違うのか、企業の場合と給与所得者の場合とで違うのかなどの論点がある。
最高裁は、給与所得者で後に破産したというケースで、ただし受任通知には自己破産申立予定ということは記載されていなかったという場合に、支払停止と認めたのである。
須藤裁判官の補足意見は、企業の場合にまで同様に言えるものではないと注意書きを添えている。
債務整理の受任通知という実務上良く用いられている手段の法的意味について、立体的な考察ができるお得な研究会であった。
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