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2013/07/26

jugement:弁護士会照会に応じなかったことの不法行為責任

結論として不法行為責任を認めなかった事例である。

名古屋地判平成25年2月8日判決全文PDF

弁護士法23条の2は以下のように定めており、この紹介を受けた者が回答義務を負うかどうかはかねてから争われていた。

(報告の請求)

第二十三条の二  弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。

2  弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。

上記名古屋地裁判決は、一般論として、以下のように回答義務を認めた。

弁護士法23条の2に基づく弁護士会照会の制度は,弁護士の使命(同法1条1項)を踏まえて設けられた公共的性格を有する公的な制度であり,相手方を公務所又は公私の団体に限定し,かつ,報告の請求の主体を個々の弁護士ではなく弁護士会とするなど,適切な運用を図るための手続が設けられていることなどからすれば, 被照会者は,同法に基づき,弁護士会に対して照会に対する報告をすべき法的義務を負うものと解すべきである。

さて、この法的義務があるからと言って、回答義務違反が直ちに弁護士に対する不法行為責任を生じさせる事にはならない。弁護士の法的に保護されるべき利益を侵害していなければならないからだ。ここは、原告は弁護士法23条の2が弁護士に情報請求権を与えたもので、その権利侵害だと主張したようだが、これは認められなかった。
代わりに、弁護士の営業権侵害だという主張について、以下の様な判示でこれを認めている。

何人も営業の自由を有しているところ,特に弁護士業務が基本的人権の擁護と社会正義の実現という公共的性格を有し,法律事務を取り扱うことができる法律専門家であること(弁護士法3条1項,72条参照),弁護士が受任した事件の処理に必要な業務を適正に遂行するためには,事実の調査及び証拠の収集等が重要であることに照らせば,弁護士は,受任した事件の処理に必要な調査等を行う利益を有しているというべきであり,これを「営業権」というかはともかく,少なくとも,法律上保護される利益に当たることは否定し難い

しかしながら、弁護士法上の回答義務違反が直ちに弁護士に対して違法な行為と評価されることになならないとして、さらに絞り込みをかけている。

被侵害利益の要保護性,被侵害利益の侵害の程度やその態様,被告の負担や報告によって予想される不利益の程度等の事情のいかんによっては,被照会者が,不法行為法上も報告義務を負い,これに反して報告をしないことが,権利や法律上保護される利益を侵害するものとして違法と評価される場合もある

そして具体的な事情を挙げて、要保護性は強くはなく、侵害の程度も大きいとはいえず、妨害を意図して回答を拒んだわけでもないし、被告の回答することの負担や不利益は大きくなかったとしても、結論的に違法性があるとはいえないとした。

裏を返せば、本件のような債権者が執行のために債務者の財産調査をする場合、財産開示手続を試みるなどの手段を尽くし、弁護士会照会に拠らなければ適切な情報が得られない状態にあって、そのことを照会相手方にも認識できる形で伝えていれば、回答拒絶は弁護士に対する関係での違法性が認められる余地があったかもしれない。

なお、この弁護士会照会とならんで情報収集手段である調査嘱託については、やはり報告義務違反による不法行為責任の成立の可能性を認めつつ、具体的な事例の判断として責任を認めなかった裁判例がある。
私法判例リマークス47号に解説を書いたので、必要があれば参照されたい。



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