law:ストーカー禁止法に追加された「電子メール」とは?
ストーカー禁止法改正が、この混迷国会でもサクッと実現して目を引いたのだが、つきまとい等のストーカー行為に電子メールを繰り返し送りつける行為も含むというのが内容だと報じられている。
ここでいう「電子メール」とは何か?
公職選挙法改正でも「電子メール」による選挙運動が規制され、その電子メールの定義が問題となった。
今度のストーカー禁止法についてはどのように定義されているのか?
参議院のサイトの議案pdfを見ると、特に定義はないようである。
従前のつきまとい等の行為のうち、「電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ若しくはファクシミリ装置を用いて送信すること。」という部分を以下のように改めるというのが改正法だ。
「電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールを送信すること。」
他に「電子メール」を定義した部分は見当たらない。
一般に法文で電子メールという場合、「(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(平成十四年法律第二十六号)第二条第一号に規定する電子メールをいう。)」という括弧書き定義がついてきて、その特電法の規定では以下のように定義されている。
特電法2条1号 特定の者に対し通信文その他の情報をその使用する通信端末機器(入出力装置を含む。以下同じ。)の映像面に表示されるようにすることにより伝達するための電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。)であって、総務省令で定める通信方式を用いるものをいう。総務省令
特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の総務省令で定める通信方式は、次に掲げるものとする。
一 その全部又は一部においてシンプルメールトランスファープロトコルが用いられる通信方式
二 携帯して使用する通信端末機器に、電話番号を送受信のために用いて通信文その他の情報を伝達する通信方式
公選法改正により挿入された新142条の3も同様であり、上記の定義からSMTPを用いたものとSMSが対象となる。
こうした定義を取らない電子メールを規制の対象とする場合、さてどう解釈するか?
書いていないが特電法の定義を採用するというのが穏当なところであろうが、それだと爆発的に普及したLINEを用いての反復送りつけが対象にならなくなる。
ストーカー行為の規制であるから、より広く、特定の者に対して電子的手段でメッセージを送りつける行為はすべて電子メールと解釈して、警告および処罰の対象とすべきではなかろうか?
条文上の根拠としては、一応、通常付けられる定義がわざわざ付けられていないということに求められよう。
以上は条文を見た上での私見であり、思わぬ見落としがあればご指摘を待つ。
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コメント
一義的にはDV防止法並びでしょうね。
直罰的なものには、定義をしっかり置いていると感じられますが、
それでは説明できないものもある気がしますので、
先生御指摘のような解釈の余地が生まれるのでしょうね。
投稿: とおりすがり | 2013/06/28 09:23
先生、いつも勉強になる記事をありがとうございます。
条文中に「電子メール」という用語が現れる法律についてざっと調べてみたところ、3類型にわかれるようです。
(1)独自定義型
特定商取引法、特定電子メール送信適正化法
(2)他法定義流用型
公職選挙法、不正アクセス禁止法、暴力団対策法 ※ 三法とも「特定電子メール送信適正化法」の定義を流用
(3)定義なし型
出会い系サイト規制法、DV防止法、(新)ストーカー規制法
出会い系サイト規制法では、「電子メールその他の電気通信を利用して、(中略)相互に連絡」という表現を用いているので、LINE等でのメッセージも含まれそうですね(出会い系サイトに該当するか否かはさておき)。
DV防止法、ストーカー規制法、暴力団対策法の三法については、その保護法益から考えても、特定電子メール送信適正化法の定義にとらわれず、広く解釈していただきたいところですが、暴力団対策法は「特定電子メール送信適正化法」の定義をあえて明示してますので、LINEメッセージも対象としてしまうと、罪刑法定主義に反することになりますね。
投稿: 195 | 2013/06/28 21:46