arret:イレッサ薬害訴訟最高裁判決
抗癌剤のイレッサにより致死性の副作用が生じて亡くなったというケースにおいて、最高裁が製薬会社の製造物責任を否定する判決を下した。
結構長く、補足意見も裁判長以外の全員がつけているので、それらも興味深い。
ここでは、時系列的に事案をまとめて、判旨とされた一般論を引用する。
【輸入承認以前】
抗癌剤による間質性肺炎のリスクは知られていた。
イレッサ輸入承認以前の臨床試験では、間質性肺炎の発生が133例中3例あったが、いずれも軽快した。アメリカでの臨床試験でも間質性肺炎の発症例が認められ、死亡例もあったが、イレッサ投与との因果関係は可能性ないし疑いにとどまる。
EPAとして全世界でイレッサが投与された約1万5000人のうち、副作用として間質性肺炎の発症を否定出来ないものは15例だった。
【輸入承認】
平成14年1月、製薬会社がイレッサの輸入承認申請をし、同年7月5日厚労大臣から承認された。
【販売開始】
同月16日からイレッサの輸入販売を開始した当時の添付文書(第1版)には、警告欄に副作用として間質性肺炎が記載されず、重大な副作用欄に間質性肺炎があらわれることがあることが記載されていたが、致死的となりうる旨の明示的記載はなかった。この点が、製造物責任法2条2項に規定する欠陥と上告理由で主張されている。
【副作用の発生】
イレッサ販売開始から同年10月11日までの約3ヶ月、34例の間質性肺炎発症が報告され、その発症が最終的に認められた31例中17例が死亡症例だった。
同月15日、厚労省の指導を受け、製薬会社が緊急安全性情報を出し、副作用としての間質性肺炎等発症とその対策が記載された。また同日に添付文書第3版を作成し、警告欄に緊急安全性情報と同様の記載をした。
本件訴訟でイレッサ投与により死亡したとされる患者は、いずれも平成14年の販売開始から1ヶ月程度以内でイレッサ投与を受け、10月には間質性肺炎により亡くなっている。
このような事実関係において、最高裁は医薬品の副作用について製造物責任法2条2項にいう「欠陥」該当性に関する一般論として以下のように判示する(改行と句点は引用者)。
医薬品は、人体にとって本来異物であるという性質上、何らかの有害な副作用が生ずることを避け難い特性があるとされているところであり、副作用の存在をもって直ちに製造物として欠陥があるということはできない。
むしろ、その通常想定される使用形態からすれば、引渡し時点で予見し得る副作用について、製造物としての使用のために必要な情報が適切に与えられることにより、通常有すべき安全性が確保される関係にあるのであるから、このような副作用に係る情報が適切に与えられていないことを一つの要素として、当該医薬品に欠陥があると解すべき場合が生ずる。そして、前記事実関係によれば、医療用医薬品については、上記副作用に係る情報は添付文書に適切に記載されているべきものといえるところ、上記添付文書の記載が適切かどうかは、上記副作用の内容ないし程度(その発現頻度を含む。)、当該医療用医薬品の効能又は効果から通常想定される処方者ないし使用者の知識及び能力、当該添付文書における副作用に係る記載の形式ないし体裁等の諸般の事情を総合考慮して、上記予見し得る副作用の危険性が上記処方者等に十分明らかにされているといえるか否かという観点から判断すべきものと解するのが相当である。
要するに、医薬品に副作用があるからといって直ちに欠陥があるとはいえず、医療用医薬品については添付文書に副作用情報が適切に記載されていなければ欠陥ありとされるが、その適切性は諸般の事情から処方者に副作用の危険性が十分明らかにされているかどうかという観点から判断するという。
そして本件では、添付文書第1版の記載がその当時として適切であったと判断された。
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