jugement:大道芸研究会のウェプページと著作権侵害
大道芸研究会という団体のウェプページをめぐり、2010年以前のHP管理人が制作していたページを2010年以降の管理人がソースをダウンロードして別途のサイトで運営したという事件で、著作権侵害と不法行為との何れもが認められなかった事例である。
旧管理人は新管理人に対して止めてくれといったといい、同一性保持権侵害を主張し、さらにそうでないとしても不法行為責任があるとしたのだが、裁判所は、まず著作物とは認めがたいとして同一性保持権侵害を否定した。
もう少し厳密に言うと、画面については、原告が使用したホームページ作成ソフトの出来合いの素材や第三者が提供している素材を適当に組み合わせたもので、団体のウェプページとしてはありふれており、色彩が独特だという主張に対してはなんとモノクロ画像しか提出されていないから証明されていないというのである。
ついでソースコードについては、要するにHTMLで記述されたものであって、プログラムの著作物というだけの創作性があるわけではないという。
その上で、不法行為責任が認められるかどうかについては、以下のように最高裁判決を引用して一般論を展開した。
著作権法は,著作物の利用について,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに,その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で,著作権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,独占的な権利の及ぶ範囲,限界を明らかにしていることに照らすならば,同法所定の著作物に該当しないものの利用行為は,同法が規律の対象とする著作物の独占的な利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である(最高裁判所平成23年12月8日第一小法廷判決民集65巻9号3275頁参照)。
引用されている最高裁判決は北朝鮮の映画が著作権の保護の対象とならないとした判決で、原審は不法行為責任を認めたが、最高裁が上記の判示のもとで破棄自判し、不法行為責任を認めなかった事例である。
本件でも裁判所は、原告と被告との大道芸研究会運営をめぐる経緯やHP継承に関するやり取りを認定し、被告がコピーして掲載したことは社会的に容認される範囲内だとした。
至極妥当な判断だ。
団体のウェプページとして会員の有志が作成したページは、やはりその団体の顔として利用している以上、作成者個人が団体をやめようとどうしようと、団体のものとして扱われる方が適当だ。団体が内紛状態になり、ウェプページ作成者が内紛の一方当事者になると、その著作権を持ちだして武器とすることがまま見られるが、信義則違反ないし権利濫用というべきであろう。
結論として本件判決は、そのような扱いである。ただし、創作性の判断は、そのような価値判断とは別のところでなされるべきなので、その判断の当否は留保したい。
大道芸研究会というのをググってみると、いくつか異なるバージョンがあるようだが、ただの大道芸研究会はこちらのようだ。
判決文では2010年に解散し、再結成されたような経緯が書かれているので、2010年以降の歩みしか書かれていないこのページの団体が、被告の所属する団体であろう。
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