jugement:強盗殺人とデジタル・フォレンジック
いわゆる二項強盗殺人で、無期懲役刑が下された裁判例が公表されている。
判決で認定されている事件のあらましは、27歳の女性被害者に対して、アメリカの会社立ち上げ資金への投資を持ちかけて800万円をだまし取った被告人が、その返済を迫られるや、返済を免れようとして被害者を殺害し、海岸の砂に埋めたというものである。
色々争われており、被告人は自分は殺していないと主張しているようだから、断定はできないが、控訴審では証拠調べの請求をすべて却下して1回で結審している状況である→証拠調べ請求 全て却下 主婦殺害控訴審。
この刑事裁判について興味深いのは、デジタル証拠の取り上げられ方だ。
まず、被告人は、被害者が殺されたと推定される日時の翌日未明、インターネット検索をやっていて、その履歴が殺した証拠の一つにされている。
判決文から引用しよう。
捜査報告書等の関係証拠によれば,被告人は,平成23年2月7日午前2時16分ころから同日午前3時27分ころにかけて,被告人方において,自宅パソコンを用いて,「血の臭い 消す」「殺人懲役」「海岸 白骨」などといった語句を,インターネットで検索している事実が認められる。
こうした検索をすると、どういう結果が得られるのかまでは認定されていないので、暇があったら検索してみるとよいが、それはともかく、被害者が殺されてすぐにこういう検索をしていることは犯人でなければ説明困難とされている。
他方,被告人の本件当日後の行動のうち,前記3(1)のインターネ ット検索は,被害者が殺害された時点と極めて近接した時期においてなされたものであり,かつ,その検索語句には,被害者が殺害され,その死体が海岸に遺棄されていることをうかがわせるものが含まれていることから,この時点で,被告人は被害者がこうした状況にあることを把握していたことをうかがわせるものであり,被告人が犯人でなければ,説明することが極めて困難な事実であるといえる。
なかなか大胆な推論ではある。
この判決では、この他にも「パーソナルコンピュータの解析結果について」なる書面と、携帯電話のメール内容が重要な証拠として認定に用いられている。
現代の法廷において、デジタル情報がいかに重要な証拠として用いられているか、その解析技術や復元の技術、正確な保全を保障するための技術、すなわちデジタル・フォレンジック技術が重要な役割を果たしているかが如実にわかるものであろう。
これに対して上記の新聞記事によれば、被告人が被害者のパソコン解析について「作為的な作られ方をしている」などと主張する書面を提出していたとある。被告人はNHKの委託カメラマンということだが、技術的な知見もある人なのだろうか?
それはともかく、重要な証拠として用いるのであれば、デジタル証拠の改ざん・滅失・捏造の容易さもあり、しかし同時に作為の跡が残りやすいという性質もあり、いささかの疑念も生じないようなきちんとした捜査と記録化が必要である。
この点について、デジタル・フォレンジック研究会は、直接刑事捜査を対象としたものではないが、「証拠保全ガイドライン」を作成して公表している。捜査関係者や弁護側関係者は、これを参照し、少なくとも押収したパソコンをいきなり立ち上げて中を見たり適当にコピーしたりといった軽挙妄動に走らないように、スキルを磨いていく必要があるだろう。
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