jugement:暴力団賛美コミックの撤去要請は違憲か?
まるで司法試験の問題のような事例だが。
福岡県警が、コンビニで売られている暴力団を賛美する内容の書籍・コミックについて、撤去するよう要請したことが、憲法21条(表現の自由の保障)に反し、同31条(適正手続の保障)に抵触するとして、コミック作者が国賠を求めたというものである。
事実関係はほとんど争いがない。
福岡県警の県警本部刑事部組織犯罪対策局組織犯罪対策課(組対課)が、県警本部生活安全部生活安全総務課(生安総務課)とともに、コンビニ各社で構成される防犯協議会に暴力団賛美の書籍・コミックの排除を依頼し、協議会からコンビニ各社に直接言えと言われたので、協議会の担当としていたコンビニの担当者に要請し、その求めに応じて対象図書リストを作って、「適切な措置」を求める文書で排除の要請をした。なおリストに載ったのはすべて特定の出版社のものであった。
これに応じてコンビニ各社が一斉に店頭から対象図書を撤去したため、作者の一人が国賠を求めたというのが本件訴訟だ。
論点は、原告が主張する表現の自由侵害、適正手続違反といった憲法上の問題と、人格権侵害(名誉毀損の成否)とがあり、さらに適正手続違反には本件の県警の行動が行政法的にどう位置づけられるのかという問題も関係してこよう。
民事的には、県警の要請に応えて当該書籍類を撤去したコンビニの責任の有無もまた考えるべきであろう。何を売るかの選択は販売店の自由に委ねられているとしても、本件のような経緯をたどって、一定の意図をもって特定の表現を売らないと判断したことに問題はないのか、私人の行為だからの一言で済ませられる問題ではない。
実体的にはさらに、暴力団賛美の内容を持つとされるコミックが本当に有害なのかどうかも問われるべきであろう。ポルノと同様に、表現内容が有害だというからには何故有害なのか、単に嫌いだからとか、イメージ的に有害そうだからという以上の根拠が必要であろうし、法的な効果に結びつけようとする場合は尚更である。
有害性の有無とは別に、暴力団排除という政策目標に適切かどうかということも、問われる必要がある。
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コメント
難しい問題ですが…言論の自由は守らないとですね。
投稿: 吉沢@外国語 | 2012/07/11 00:01
明らかに警察がやっていることなのに、「コンビニがやっていることだから」と言って警察に責任がないとする地裁判決は可笑しいと思います。
憲法だけでなく他の法律からも捉えるべきでしょう。
独占禁止法
第二条第5項 この法律において「私的独占」とは、事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもつてするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
第三条 事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。
第八十九条 次の各号のいずれかに該当するものは、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。
一 第三条の規定に違反して私的独占又は不当な取引制限をした者
「コンビニ=事業者」「警察=教唆犯」「漫画家=他の事業者」です。警察の通知が私的独占の教唆に当たる犯罪行為であれば、当然民法上も不法行為になるという主張です。
また、警察の通知が「偽計」に当たるとする主張もあると思います。
刑法
第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
また、裁判では警察の通知が「強制」に当たるかが論点になっていたようですが、損害賠償で問題になるのは「警察の通知と販売停止に因果関係があるか」ですから、論点を明確にすべきだと思います。
しかし、営業の自由を守る法律はいくつもあるのに、表現の自由を守る法律は憲法以外にないのでしょうかね。
投稿: こんにちは | 2012/07/11 23:44
独禁法の本にあたりましたが、やはり独禁法が禁止する「ボイコット」に当たりますね。警察側としては、官製ボイコットが公共の福祉に合致するということ、漫画を撤去させることが犯罪の減少に繋がるということを立証しなければいけなくなりますね。実質論に入った上で、警察に勝訴させるのなら分かりますけどね。
福岡地裁の判決は「警察は要請はしたけど、業者が勝手にやったことだから、警察に責任なし。」という非常に筋の悪いもの。これが判例(裁判例)として影響力を持つようになると、応用範囲が広すぎるため、そこらじゅうの人が困るでしょう。もう少し考えて判決書いてもらいたいものです。
投稿: こん | 2012/07/13 00:35