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2012/03/12

jugement:判例集に実名が載って名誉毀損と・・

さいたま地判平成23年1月26日判決全文PDF

これもまたさいたま地裁の1年以上前の裁判例だが、最近web公表された。

事案は単純で、別件訴訟の原告が、一部勝訴した判決を実名入りで判例時報に掲載された。
これはプライバシー侵害または名誉毀損だとして、判例集の出版社(判例時報社)に損害賠償請求したものだ。

その別件訴訟というのは、ざっくりいうと、原告が勤務先に対して実用新案権やノウハウを譲渡した対価の請求で、一審・控訴審とも一部認容されていた。

一審判決は平成15年4月10日であり、控訴審判決は平成16年9月29日である。

これらの判決は、いずれも原告名と被告会社名とを表示して、判例時報に掲載されたため、原告が上記の理由で損害賠償を求める訴えを提起した。

面白いことに、原告は自らのウェブサイトでもこの判決を掲載していた。そこには実名はもちろん、住所や電話番号までも記載されていたという。

さて裁判所は、氏名それ自体を公表することだけでプライバシー侵害となるとの主張には与しなかったが、訴訟を提起した人物として紹介されるのは一応プライバシー侵害になるとした。ただし、それが違法といえるためには、「開示されるプライバシーの性質、開示の目的並びに方法、及び開示による不利益の程度等を総合的に考慮することが必要である。その結果、プライバシーに該当する情報が一般人の感受性を基準として私生活上の平穏を害するような態様で開示されたといえる」かどうかを判断しなければならないとする。

原告は、自ら別件訴訟を提起した以上、裁判公開の原則からそれが知られることについて受忍すべきだし、知的財産という経済紛争であれば私事性、秘匿性も高くはない。自ら実名をもってウェブサイトに掲載していることからも、秘匿性は高くない。
他方、判決文公開は公益性を有し、公開の方法もそのまま載せたものであり、法律専門誌の伝播力も新聞などに比べて低い。
原告は嫌がらせなどを受けたというが、それは自ら電話番号等を公開したことにも原因が有りそうだ。

以上のことから、仮名処理をしなかった本件でも、プライバシー侵害に違法性はないとした。

名誉毀損の主張も、一部認容しているのであるから名誉は害されていない、大部分請求が棄却されたというのは単に主観的な名誉感情が傷つけられているに過ぎず、名誉毀損にはならないとした。

裁判の公開という原則、判決はいわば公共財産であることなどから、プライバシー侵害にも名誉毀損にもならないというのは妥当である。
ただし、仮名処理がほぼ原則となっている今日、個人名を実名のまま掲載することの当否は、法的責任とは別に、再検討されるべきであろう。

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