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2012/01/28

arret:非嫡出子相続分差別の違憲判決by名古屋高裁

名古屋高判平成23年12月21日PDF判決全文

このところ、高裁段階で相続分の非嫡出子差別が違憲となるとの裁判例が相次いでいる。
最高裁大法廷までいったのに上告却下に終わってしまった事件は大阪高裁だったが、今回公表された判決は名古屋高裁の、おそらく初めてのものと思われる。

判決文は長いが、思い切って要約すると以下のようになる。

非嫡出子の相続分を嫡出子の半分とする規定は、原則として憲法違反ではない。
しかし、被相続人が一度も法律婚をする前に内縁関係にあった相手との間に生まれた子どもの相続分を半分にすることは、法律婚関係の保護という合理的理由がない。
そして現在は法律婚だけが保護されるべき社会的状況になく、多様化しているので、法律婚でない関係から子どもが生まれることも社会的に認められるし、児童権利条約でも子どもを差別することは禁止される。
従って、本件相続が発生した平成16年の段階で、非嫡出子の相続分を嫡出子の半分にする規定は、それ自体違憲でなくても、本件のような一度も法律婚をしていない間に生まれた非嫡出子についてその規定を適用することには合理性がなく、違憲となる。

やや詳しく判決内容を紹介すると以下のようになる。

事案は、被相続人(亡父)の樽入れ婚をした相手が妊娠して実家に戻って出産した子どもX(控訴人)と、その後に初めて入籍した妻との間に生まれた子どもYら(4人、うち3人が被控訴人)との間で、亡父の遺産の遺留分をめぐって争われたものだ。
亡父は遺言で妻に全財産を相続させ、その妻も死亡してYらが相続したので、Xが遺留分(本来の相続分の半分は遺言によっても奪われないという部分)に相当する部分の返還をYらに求めた。

その際、民法の規定(900条)によれば、亡父の子が計5人で、そのうちXだけは非嫡出子であるから他の5人の半分となる。従って亡父の遺産のうち、妻の相続分が1/2、Yらは1/9、Xだけは1/18となる。遺留分はその半分だからXの遺留分は1/36となる。

民法第900条  同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。 一  子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。 二  配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は、3分の1とする。 三  配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は、4分の1とする。 四  子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。
(遺留分の帰属及びその割合) 第1028条  兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。 一  直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の3分の1 二  前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の2分の1
第1044条  第887条第2項及び第3項、第900条、第901条、第903条並びに第904条の規定は、遺留分について準用する。


しかし、非嫡出子というカテゴリーを認めないで、子どもはすべて均分相続と考えると、YらもXも、妻の取り分1/2を除いた部分を5人で分けるので、相続分は1/10であり、Xの遺留分は1/20となる。

第1審の名古屋地裁豊橋支部は、民法の規定に忠実に、Xの遺留分返還請求権を亡父の財産の1/36の限度で認めた。これでは足りないとするXが控訴した。これに答えたのが本判決で、本判決は1/20をXの遺留分と認め、その限度までXの請求を認めた。

その論理は、最高裁判所の判例で民法900条4号ただし書が合憲だとされているところを踏まえて、この事件のような事例でその条項を適用するのは憲法違反になるという、適用違憲と呼ばれるものだ。
判旨を要約すると以下のようになる。

ア〜イ 非嫡出子の相続分を嫡出子の半分にする規定は、憲法14条にいう差別に該当するが、その差別が合理性を有する区別といえるものなら憲法違反とならない。
ウ 憲法24条(婚姻は両性の平等な合意による)を承けた民法は一夫一婦制による法律婚制度を採用しているので、非嫡出子を区別することには合理性がある。
エ しかし、本件のように、法律婚をしていない間に子供が生まれた場合、保護すべき法律婚も優遇すべき嫡出子もいなかったのだから、後日発生した法律婚とその嫡出子との関係で非嫡出子を区別することにはウで述べた合理的な理由がない。「なぜならば、被相続人が1度も婚姻していない状態で出生した非嫡出子とその原因となった男女の関係は、婚姻関係のない男女の関係とその間に生まれた子というだけの存在で、その時点では、被相続人の婚姻との関係では価値中立的な社会的存在というべきものであって、豪も法律婚とそれに基づく嫡出親子関係などの法律関係を脅かすものではないのであるからである。」
 その上、旧民法当時とは社会状況も異なり、婚姻の形態も事実婚など多様化し、法律婚ではない関係から子どもが生まれることにも社会は寛容になってきている。
 法制審議会も非嫡出子相続分の差別をなくす方向の要綱案を作成しており、児童権利条約も子どもの差別を禁止している。
 従って、本件のような被相続人が一度も婚姻していない段階で生まれた子どもについて、その後に生じた嫡出子との関係で相続分を半分とする規定を適用することは、もはや正当化できず、憲法14条に違反する。
オ このことは民法900条を準用する1044条にも当てはまる。

さて、この判決に対しては上告されたかどうか定かではないが、適用違憲とはいえ、高裁段階のものであるから、以前の大阪高裁の决定例とも合わせて、かなり実務に影響を及ぼすことだろう。

それはともかく、法律婚主義をとっているから法律婚をした夫婦を優遇することは認められても、法律婚夫婦の間の子とそれ以外の非嫡出子とを相続分において区別することには全くつながらない。
本妻が愛人に対して法的に優遇されることはあっても、本妻の子が愛人の子より財産的に優遇されるという理由はなかろう。別に愛人の子たる地位や本妻の子たる地位を選んで生まれてきたわけではないのであり、自分に責任のないことで不利益を課されるというのは近代法の原理にも反する、前近代的な因襲ともいうべきことだ。

そういうわけで、本判決も判例違反ではないと言いたいがためとはいえ、一夫一婦制の制度のもとでは非嫡出子が嫡出子に対して不利益を被っても当然という非論理的なことを書かないほうがよいと思うのだ。

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