arret:民訴教材:246条違反の例
民訴の教材として格好の裁判例が最高裁で出された。
事案は、もともとが独立当事者参加で複雑なのだが、単純化していうと、土地の賃貸人(原告)が賃借人(被告)に賃借権の無断譲渡を理由とする解除を主張し、賃借地の明渡を求めたところ、無断譲渡とされる譲受人(参加人)が、自分こそが賃借人であると主張し、賃貸人に賃借権確認を求め、独立当事者参加したというのである。
その際、請求の趣旨は「原告と参加人との間において、参加人が別紙物件目録記載の土地につき、貸主を原告とする建物所有目的の賃借権を有することを確認する」とあり、請求原因にて参加人の母親がもともと原告から期間20年で年地代を「固定資産評価額の1000分の60に相当する金額」とする賃貸借契約を締結していた事実を主張していた。
これに対して第一審裁判所が、「参加人が、本件土地につき、原告を貸主として、地代を年額で固定資産評価額の1000分の60に相当する金額とし、木造建物及びその他の工作物の設置を目的とする賃借権を有する」という判決を下した。
これに驚いた参加人が控訴して、自分は地代の額の確認を求めた覚えはなく、賃借権の存在の確認を求めたのだから、「地代を年額で固定資産評価額の1000分の60に相当する金額」とした部分は民訴法246条に反し、申し立てていない事項について判決した違法があると主張した。
その上で、控訴審では「上告人(参加人)が本件土地につきA(原告)を貸主として地代を年額6万8160円とし木造建物及びその他の工作物の設置を目的とする賃借権を有することの確認を求める」旨の訴えの変更の申立てをした。
ところが控訴審裁判所は、請求原因も合わせてみると、地代についての確認も含まれているとして、参加人の全面勝訴なのだから、参加人には控訴の利益がないとして、控訴を却下した。
これに、参加人が上告したというわけである。
この点については最高裁が先例として最判昭和44年9月11日集民96号539頁を引用していて、その判決では「被上告人の本訴請求は、上告人らの争つている本件土地に対する賃借権そのものが現に存在することの確認を求めるというに尽きることが明らかであるから、その賃料額、存続期間または契約の成立年月日を主文に掲記する必要のないことは当然である」と判示されている。事実関係が明らかでないので、ハッキリとしたことはいえないが、この先例の原判決が賃借権を特定しないで確認したということを問題とする上告のようで、必ずしも本件の先例としてぴったり来るものではなさそうだが、一応はそのような判示がなされていたというわけである。
それはともかく、本判決は、当事者が賃借権の確認を求めているときに、賃借権の地代額をも特定した賃借権の確認をするのは、当事者が申し立てていない事項について判決した違法があるとしたものである。
賃借権確認といっても、全く抽象的に賃借権そのものの確認をするというのでは特定性が欠ける。すくなくとも、誰と誰の間で、何を目的物とした賃借権なのかは、特定する必要がある。
それに加えて、「いつ」、「何のために」、「いくらで」という部分は、賃貸借契約の本質的な要素ではあっても賃借権の特定には必ずしも必要がない。
「いつ」、すなわち賃借権の存続期間は、重要であるし、賃借権確認の利益があるというためには賃借権がその後いつまで存在するのかも確定していれば、それに越したことはない。しかし、厳密に言えば、判決の基準時、すなわち口頭弁論終結時における賃借権確認でも、その後の紛争解決の重要な決め手となりうるであろう。なにしろその基準時後に賃借権消滅の事実があったと言えない限りは、賃借権があるという前提で、その他の法律関係を規律するのだから。
それに対して「何のために」、すなわち一時使用なのか建物所有目的なのかなどは、賃貸借契約の解約や更新をめぐる紛争が生じたときに考えれば良いことであって、それらの紛争が生じていない段階でそれらも確認する利益はない。
そして本件で問題となった「いくらで」、すなわち地代の額も、賃借人の立場からは、賃借権、すなわち賃貸借契約の成立を基礎づける事実としては賃料額の定めを主張する必要があるが、それは事実主張である。訴えの内容として、賃料額を積極的に確認してもらう利益が賃借人にあるとは思えない。賃借人としては、仮に賃料の額に争いがあるとすれば、自らが主張する額以上の賃料債務は不存在だと確認を求めるなら利益があるが、積極的に自らの債務の既判力による確定を求める利益はなかろう。それはむしろ賃貸人の側が請求し、主張立証すべきことなのだ。
そういうわけで、原審では賃借人である参加人が原々審の対応に引きづられて請求の趣旨を変更しているが、そのへんはよく考えたほうが良かったのではあるまいか、と思う。
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