東北大震災被災者の二重ローンを個人倒産ADRで解消へ
ボ2ネタで取り上げられていた記事だが、被災者の債務減免の初成立ができそうだと報じられている。
調停役を務める第三者機関「個人版私的整理ガイドライン運営委員会」によると、これまでに津波で家屋を流されるなどの被害を受けた5件程度について、返済できる借金や金融機関に求める債権放棄の額を盛り込んだ弁済計画案を策定。このうち、宮城県の男性の案件が金融機関に持ち込まれ、来年1月に債務減免が認められる見通し。22日時点で、運営委に寄せられた相談件数は1278件、うち弁護士などの担当者を紹介したのが274件、弁済計画案の策定作業中が76件となっている。
上で報じられている委員会のサイトは以下である。
昨日のNスペでも取り上げられていなかったようなので、あまり知名度が高くないようだが、東北被災各県に事務所を設け、結構な規模で展開している。
これは、昨年7月に高木新二郎弁護士を座長とする個人債務者の私的整理に関するガイドライン研究会が個人債務者の私的整理に関するガイドライン(pdf)に基づいて、個人の債務整理をしようというものである。
実施主体である上記の運営委員会は、東京銀行協会ビルヂング内に本部をおいて、茨城、福島、宮城の各銀行協会内と岩手県産業会館、青森県商工会館に各支部を設けており、全国銀行協会等が設立したものだ。各地で個別相談会が頻繁に開催されている。
登録専門家は弁護士や公認会計士など1000人以上が従事している。
手続の対象となるのは個人であり、消費者も事業者も含まれる。被災者であることは必要だが、間接的な被害を受けた場合も含まれるという。
手続の進行は、一般的な倒産処理手続とよく似ており、手続開始を申し込むと、債権者の支払い要求がストップし、債務者の財産状況や将来の支払い可能性などを調査し、債務の減免条件と再建計画が作成される。消費者の場合は、将来の収入見込に応じた返済計画を立てるが、収入見込みがない場合は清算することもありうる。破産しないでも破産免責を受けるのと同様だ。事業者の場合は、原則として再建計画を立てることになる。
新たな貸付を受けるかどうかは、このガイドラインのもとでは明記されておらず、上記委員会が新たな貸付を斡旋したりするものではないと思われる。しかし、二重ローンの解消が主たる狙いであり、既存債務の整理だけでは消費者も事業者も再出発ができないことは自明であるから、新たな貸付を受けることを前提にした既存債務の整理なのであろう。
この手続きに基づいて債務整理をしたことは、いわゆるブラックリストには書かれないということになっており、また金融機関の方も不良債権扱いをしなくても良いということになっており、実質的にはこのあたりから再建のための融資を後押しすることになるのだろう。
ともあれ、被災者で公的支援の対象から漏れているような方々に、もっと利用されても良い手続だ。
現在までのところ、申し立て件数は87件、準備中のものをあわせても360件に過ぎず、大規模災害で困っている人の数の多さに比べるとあまりに少ないと言わざるをえない。
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