arret:競売請求認容判決の判決効の主観的範囲
いわゆる建物区分所有法に基づく競売請求とその認容判決の効力が区分所有権の譲受人に及ぶかという問題だ。
民事訴訟法を専攻する者として、関係ありそうではあるが、メインストリームの判決効や執行力などと同様に考えてよいものかどうか、疑問の多い領域であることを再確認させられる。
一見すると、区分所有者から区分所有権等を譲り受けた者は承継人に該当するので、民訴115条または民執法23条にいう口頭弁論終結後の承継人として判決の効力が及ぶようにも思われるが、最高裁は、区分所有法59条1項の競売請求が「特定の区分所有者が,区分所有者の共同の利益に反する行為をし,又はその行為をするおそれがあることを原因として認められるものである」ことを理由として、譲受人には判決に基づく競売申立ができないと判断した。
法廷意見はこのとおりの素っ気ないものだが、田原裁判官が詳しい補足意見をつけており、それを読むと最高裁の結論を支える実質的な理由が見えてくる。
すなわち田原裁判官によれば、元の区分所有者には認められた「区分所有者の共同の利益に反する行為をし,又はその行為をするおそれがある」という属性が、譲受人に当然にあるとは言えないから、判決効が譲受人に及ぶとは解し得ないという。そして訴訟係属中に譲受人が現れた場合は、訴訟引受により引きこむことが認められ、その訴訟の中で共同の利益に反する状態を解消すれば譲受人が自らの区分所有権を守れるのに対し、口頭弁論終結後ではそうは行かないので、譲受人が自己の権利を守ることができない。
もちろん承継人が共同の利益に反する状態を解消すれば、それをもって民事執行法182条の、開始決定後の執行異議の事由とすることができる。しかしそれは競売請求認容判決に基づく競売開始決定が出されてからであり、それまでは自らの権利を守るための手続的権利がないというのである。
だから、承継はしないと解すべきだという。
そしてこの理は、承継人ではなく区分所有者自身が共同の利益に反する状態を解消した場合でも同様で、競売請求認容判決が確定した後に権利を守る手段が無いので検討が必要だという。
さて、この問題をどう考えたら良いか。
解釈論として、通常の給付訴訟とその強制執行のように考えると、口頭弁論終結後の承継人に当然既判力と執行力が及ぶことになり、最高裁決定はおかしな解決に見える。
しかし、そもそも建物区分所有法上の競売請求訴訟は、給付訴訟ではないのだろう。
3つの訴訟類型のどれかといえば、形成訴訟と解する他はない。競売請求権というのは、特定の区分所有者の区分所有権に関する競売申立権の取得という形成的効果を求める訴えと考えられる。
競売請求認容判決は形成判決だとすると、その判決効は形成力が基本であるが、既判力も一応あると考えられる。事実審の口頭弁論終結時における形成権の存在・不存在が、通説からの帰結だ。
そしてこの既判力は民事訴訟法115条の主観的範囲がかかってくるから、当事者たる区分所有者自身はもちろん、事実審の口頭弁論終結後に区分所有者から区分所有権を譲り受けた者にも及ぶはずだ。その効果は、あくまで、特定の区分所有者に対して事実審の口頭弁論基準時における競売請求権という形成力がある(棄却ならもちろんない)という点についての拘束力が承継人にも及ぶということだ。
形成的効果が承継人に受け継げられるかどうかは、従って訴訟法上の判決効の問題ではなく、実体法上の権利の性質によるのだろう。
例えば抵当権は、登記により譲受人にも対抗可能で追及効が認められる。対して動産先取特権は、譲受人に追及効はない。もちろん物上代位権があるが、それは譲受人の所有権取得を妨げるものではない。
これらと同様に、区分所有法59条に基づく判決による競売申立権は、当該区分所有者にのみ及び、区分所有権の譲渡による譲受人には追及効がないと解する余地は当然ある。そしてその場合の考慮要素が、公示の有無にあるのか、それとも区分所有者の属性によるという特徴によるのか、いずれかによって、処分禁止の仮処分が有効かどうかも決まってきそうだ。
区分所有者の属性によるのであれば、処分禁止の仮処分をかけておいて、それに違反して譲渡がなされた場合でも、譲受人に競売請求認容判決の効力が及ぶとは言い難い。対して公示がないからという理由なら、処分禁止の仮処分は登記されるので、公示は十分であり、譲受人は競売申立権を争えないと解することができそうだ。
最高裁判決の書きぶりからすると、公示の問題ではなく区分所有者の属性によるのであるから、処分禁止の仮処分をしていたとしても譲受人が出で来れば、結局競売申立権を認めた判決は無に帰することとなろう。
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