arret:オークショントラブル
簡裁判決に対する控訴事件である。
オークションで落札した株主優待券を、簡易書留で送る合意にもかかわらずメール便で送ったため、落札者に届かなかったという事例で、債務不履行責任を認めた。
争点はいくつかあるが、被告出品者が「簡易書留郵便も可能です。Cメール送料にて送ります。」と記載し、落札者が「はじめまして 商品を2個落札しました。発送方法について,簡易書留郵便を希望します。」と書いたことで、簡易書留郵便による配送についての合意が成立したと言えるかどうか、またその後に出品者が「落札いただき,ありがとうございました。C・メール便(80円)(簡易書留郵便です)にてお送りします。よろしくお願いします。」と書いていることをどう評価するかが第一で、どうも出品者はメール便のことを簡易書留郵便と誤解していたようである。
しかし裁判所は、文字通り簡易書留郵便による配送について合意が成立したと解し、仮に誤解があったとしても債務不履行には違いないとしている。
次に、損害額である。債務不履行による相当因果関係ある損害として、原告は落札代金・振り込み代金4787円の他に、通信費用、株主優待券を使って旅行する予約をしていたのにキャンセルを余儀なくされた際のキャンセル料、そして予約していたホテル等のキャンセル料など、合計11万円余りを請求した。
原審、本判決とも、相当因果関係ある損害は落札代金と振り込み代金だけだとして、4787円の賠償を命じた。
さらに、このトラブルで出品者の方は落札者の評価として「悪い落札者です、二度と取引したくありません」などと書き込んだが、これが名誉毀損になるかどうかも争われている。その慰藉料として8万円余りが請求されている。
これについて裁判所は、以下のように判示している。
本件サイトにおいては,オークション取引が成立し,目的物の授受,代金支払等の取引が全て終了した段階で,出品者(売主)及び落札者(買主)が,それぞれ相手方を「良い」,「普通」,「悪い」の3段階で評価し,あわせて評価コメントを記載するシステムとなっており,これらの評価及び評価コメントは, 全てハンドルネーム(別名)をもって行われるものであることが認められる。そして,本件コメント等のうち,「悪い落札者です」との評価は,上記3段階の評価のうちの1つを記載したものにほかならず,また,「二度と取引したくないです。」との評価コメントも,被控訴人が控訴人との本件サイトのオークション取引を通じて形成した感想,心情を吐露したものにすぎず,表現方法も,オークションの落札者(控訴人)を評価するコメントとして,直ちに相当性を欠くということはできない。 以上からすると,本件コメント等は,控訴人の一般社会における評価を低下させるものとは認められないし,本件サイト内において出品者が落札者を評価する際に用いる表現として,違法ということはできない。
やや微妙なところもあるが、ハンドルネームで行われることや、あらかじめ用意された評価レベルの一つを選択しているにすぎないところや、感想・心情を吐露したに過ぎないことから、原告の「一般社会における評価を低下させるものとは認められない」として、名誉毀損それ自体が成立しないとしたものだ。これに表現の違法性がないということも付け加えられているが、原告の社会的評価の低下を招かないという以上のものではない。
そういうわけで、まあ、代金を返せば良いという妥当な解決ということができる。株主優待券を入手できなかったことによる航空券のキャンセル料くらいは相当因果関係ある損害と認めるべきではなかろうかと思うが、ホテル代等は、別の切符を買っていけば良いのだ。
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