media:「上告を退ける決定」の意味
沖縄の中学教諭が、女子中学生にみだらな行為をしたとの理由で逮捕されたことについて、警察が実名を発表した後、起訴猶予となった事件、教諭が警察(県)に対して名誉毀損の損害賠償を求めた訴訟で最高裁が「上告を退ける決定」をしたと報じられている。
ヨミウリ・オンライン「実名で逮捕発表の賠償請求、最高裁が上告を退ける」
女子中学生にみだらな行為をしたとして逮捕され、起訴猶予となった沖縄県内の公立中学校の男性教諭(37)(休職中)が「県警の実名発表で名誉を傷つけられた」などとして同県に損害賠償を求めた訴訟の上告審で、最高裁第2小法廷(竹内行夫裁判長)は教諭の上告を退ける決定をした。
決定は4日付。教諭の敗訴が確定した。
産経ニュース「最高裁「社会的に許容される」判決確定 淫行事件逮捕で実名発表された沖縄の公立中教諭」
沖縄県で2007年、女子中学生にみだらな行為をした疑いで同県警に逮捕された公立中教諭の男性(37)が、実名発表で名誉を傷つけられたとして、県に500万円の損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第2小法廷(竹内行夫裁判長)は8日までに教諭側の上告を受理しない決定をした。教諭側敗訴の一、二審判決が確定した。決定は4日付。
民主党さんの思い通りにはさせないぜTweetで知られる偏向報道の産経新聞だが、正確さ明確さという点では読売新聞の上を行っている。
読売新聞だけ読んだのであれば、上告が棄却されたのか、つまり一応本案判断がされたのか、それとも上告不受理決定で文字通りの門前払いとなったのかが明らかでない。産経新聞を読んではじめて「上告不受理」だったのだなということがわかる。
惜しむらくは、産経新聞の見出しである。あたかも最高裁が淫行事件逮捕の実名発表を「社会的に許容される」と判断したかのような書き方で、これはミスリーディングと言わざるをえない。
むしろ最高裁の上告不受理決定に報道価値があるとすれば、最高裁的にはこの実名発表の違法性・合法性が「法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められ」ないと考えているという点だ。
上告受理申立て制度は、平成8年の現行民訴法で導入されたもので、民訴法に以下のような規定がある。
(上告受理の申立て)
第三百十八条 上告をすべき裁判所が最高裁判所である場合には、最高裁判所は、原判決に最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について、申立てにより、決定で、上告審として事件を受理することができる。
最高裁は、全裁判の最上級審であるにも関わらず15名の高齢者で構成される裁判所であり、あまりに多くの事件が上告されてしまえば負担過重となり、著しい訴訟遅延と一件一件の審理の粗雑さを招く恐れもあるので、上告できる事件を限定しようというのが上告受理申立て制度の立法趣旨である。
その基準は、判例違反その他の法令解釈に重要な事項を含むかどうかだ。
この制度はアメリカの連邦最高裁のサーシオレイライをモデルにしたものだが、アメリカの場合上告申立てに対して数%しか受理されないし、その基準もかなり裁量的で、場合によっては下級審の判断が分かれていてもまだ統一判断を示す議論が熟していないという理由でも不受理とできる。従って受理申立が退けられても、原審判断を是認したとはみなされない。
これに対して我が最高裁の上告受理申立ての運用は、受理の割合が比較的高いといわれていたが、平成20年の統計によれば上告受理申立て2513件に対して、不受理が2418件、本案判断がされたのが65件であり、まさに数%の受理率である。そして受理されれば、原判決破棄に至る割合はすこぶる高く、約78%に達している。
本件のようなケースを見ると、法令解釈に関して重要な事項を含むかどうかよりも、原判決が明らかに違法かどうかで判断しているのではないかという疑いも生じるし、そう考えるとメディアの報道もあながち間違いとは言い難い。しかし、制度趣旨からは、あくまで門前払いで原審判断を支持するともしないとも言わないのが、上告不受理決定なのである。
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