jugement:シンジケートローン参加金融機関と情報提供義務
シンジケートローンの参加金融機関であるXらが,貸付実行後に借入人Aの経営が破綻し,民事再生手続開始決定がなされたことについて,アレンジャーであるYがAの粉飾決算に関する情報提供をする義務を怠るとともに,貸付金の使途に関して虚偽の情報提供をしたと主張して,Yに対して債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求めた事案において1 Yがいわゆる信認義務(参加金融機関の利益に配慮しながら適正なシンジケートローンの組成に努める義務)の一内容としての情報提供義務を負うとは解されず,また,XらとYとの間に契約上の義務ないしその付随義務を観念することができないとして,Yの債務不履行責任が否定された事例
2 Xらの主張に係る特定の情報について,YがXらに対し信義則上提供する義務を負っていたとはいえないとして,Yの不法行為責任が否定された事例
日本で急拡大してきたというシンジケートローンにおいて、借入人が倒産した場合に、取りまとめ銀行(アレンジャー)が参加金融機関に対してどのような情報提供義務を負うのかという問題で、名古屋地裁は、原則として本件アレンジャーは参加金融機関との間で契約関係はなく、「そもそもシンジケートローンに参加する金融機関の利益の確保に努める主体ではない上,招聘を受けた金融機関である原告らは,自己の権限と責任において融資の可否を判断すべきものであり,融資の可否の判断に関し被告に一方的に依存する関係にはないから,本件シンジケートローンにおいて,原告らが主張するような一般的・抽象的な信認義務をアレンジャーたる被告に課すべき法的根拠はないというべきである。」
ただし、不法行為責任を負うことはありうる。
シンジケートローンへの参加を検討する金融機関は,適正な情報に基づき参加の可否の意思決定をする法的利益を有するというべきであり,具体的事情の下でアレンジャーが故意・過失によりかかる法的利益を侵害したといえる場合には不法行為責任を負うことがある
そして、信義則上の情報提供義務違反があるというためには情報提供しないことが取引通念上是認できないものと評価されることが必要であり、「①当該情報が,招聘を受けた金融機関の参加の可否の意思決定に影響を及ぼす重大な情報であり,かつ正確性・真実性のある情報であること,②アレンジャーにおいて,そのような性質の情報であることについて,特段の調査を要することなく容易に判断し得ること」の二点が満たされていれば、それを提供しないことが取引通念上是認できないとされる。
アレンジャーは、他方で顧客情報に関する守秘義務を負い、またシンジケートローン組成に関する借入人との契約上も守秘義務を負っているのであるから、それとの均衡上、上記のような要件が化されるという。
借入人の信用に関わる重大なネガティブ情報であっても,それが正確性・真実性のある情報であることをアレンジャーにおいて確認できない段階で外部に漏らせば,正当な理由のない開示行為として守秘義務違反となるおそれがあり,加えて,前示の借入人,アレンジャー及び貸付人間の関係に照らせば,アレンジャーが借入人に関して入手した情報が,招聘を受けた金融機関の参加の可否の意思決定に影響を及ぼす重大な情報であり,かつ正確性・真実性のある情報であることについて,アレンジャーにおいて独自に調査して明らかにする負担を課すのは相当でないからである。
以下、具体的な適用については長いので判決文を参照されたい。
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コメント
具体的な事案にもよりますが、この判決通りとなると
いくらなんでもアレンジャーに有利過ぎるような???
特に銀行の協調融資はメインバンクがアレンジャーになって
他行に枠をあてがうわけですから、情報非対称が顕著に
なりますから。
投稿: passenger | 2010/06/09 09:01
おっしゃるとおりですが、そうすると商人間の取引においても情報の非対称性を理由に情報提供義務を認めるべしということになりますね。
この原告銀行たちは、消費者契約法を改正して全面的な情報提供義務を導入することに賛成してくれるだろうか?
投稿: 町村 | 2010/06/09 11:43