juge:テレビ東京の女が裁判官のメールを盗み見た
産経:「大好きでもっと知りたかった」 交際断られた裁判官のメール盗み見たテレ東関連会社元契約社員の女逮捕
交際を断られた男性裁判官のIDとパスワードを使い、メールサーバーに不正接続して内容を盗み見たとして、警視庁ハイテク犯罪対策総合センターと田無署は、不正アクセス禁止法違反の疑いで、東京都練馬区大泉、テレビ東京元契約社員容疑者(23)を逮捕した。 同センターによると、メールを盗み見られていたのは当時、都内の弁護士事務所で勤務していた20代後半の男性裁判官。
なんだか4月末の「court:証拠保全のデータを裁判所で消去」を思い出す。
最近は裁判官も電子メールを使うようになって、大変便利になっている反面、このようなリスクは確かにある。
で、裁判所としては、この様なリスクがあるから裁判所の仕事に関する一切の情報を電子ネットワークによって交換することを禁止するわけである。
この様な事件が現実に起こってしまうと、「それみろ、もしこの裁判官が私的にせよ裁判に関わる事項を誰かとメールでやりとりしていたら、取り返しの付かないことになったところだ。やっぱり裁判官はメールなどで情報をネットにのせるべきぢゃないんだ。」と思っている裁判所の管理者達の顔が思い浮かぶようである。
ときどき、情報管理を徹底しろとセキュリティを極限まで施せと言い出す管理者や組織トップに対して、「そこまでいうならインターネット使わなければいいだろうに」と口答えしたくなることがあり、その前提には「インターネットを一切使わないなんてことは出来っこないだろう。お前の言うとおりにしていたら世の中回らないだぞ」という本音がある。
しかし、裁判所は本気で「情報漏れのリスクのあるインターネットは仕事には一切使うな、接続もするな」と考えているようなのである。
本気でネットを使わなくても仕事は回っていくと考えている人々には、リスクとベネフィットの適切な配分とかを説いても無駄なことのようだ。
そして今回報じられている裁判官のケースが本当なら、というか交際相手にIDパスワードがばれてしまう可能性は容易に想像が付くのであり、そのリスクは現実的なものであるので、仕事には一切ネットを使うなというお触れがますます強固になっていく方向が予想されて残念である。
もちろん、仕事で使うようになれば、もっと気を遣う、もっとID管理をきっちりするという裁判官もいるだろう。が、それはあてにならない。Winnyがインストールされ暴露ウィルス付きファイルを入手するのに使うパソコンで仕事もする警察官とか自衛官とか公務員とかが沢山いたことを知っている我々は、裁判官だけは大丈夫という盲目的信頼は生じない。
しかし、やはりリスクはベネフィットとの関係で相対的に評価すべきであり、デジタル化とネットワーク利用による圧倒的な便益を前にすれば、適切に管理されたリスクは極めて小さく、ネット利用を諦めるほどのリスクではないと言うべきである。
それに、紙媒体の場合だって、事件記録を紛失し漏出した事故とかあったわけで、情報漏れのリスクがゼロということではない。ファックスは裁判所も利用しているが、ファックスだって誤送信リスクがあるのは自明のことで、現に法テラスが被疑者情報を担当予定弁護士以外の者に送ったという事件が何回かあった。この様に、多少のリスクがあることを前提にしつつ、通信手段は利用せざるを得ないのである。
加えて、デジタル化は既に抗しがたい程度に進んでおり、デジタル情報の形をした証拠が多数存在する現在、その紙媒体へのプリントアウトは写しにすぎない。しかも正確な写しではない。証拠調べは原則として原本に基づいてするという原理からしても、デジタル情報を紙媒体にプリントアウトしたものを証拠調べに使うというのは違法な状態とも評価できる。
持ち出しに伴うリスクをなくすため、データは基本的に裁判所のサーバーに蓄積しておき、裁判官はこれに外部からアクセスできるようにするプライベート・クラウド方式を利用するのでも良さそうである。もちろんIDパスワードで簡単に裁判官領域までアクセスできるとリスクが大きいから、ワンタイムパスワードを設定するとか、色々と技術的な工夫の余地はある。その辺はネットバンキングなどの豊富な経験を参考にすればよい。
ということで、こんなつまらない事故を過大に恐れてデジタル化をためらうのではなく、必要なセキュリティを早急に整備し、裁判官その他の職員のデジタル情報取り扱いスキルを高める一方で、デジタル情報の正面からの扱いとネット利用の方向に踏み出すべきである。
なお、毎日jpには以下のように記載されている。
逮捕容疑は、09年12月21日、当時契約社員として勤務していたテレビ東京子会社のパソコンから、20代後半の弁護士=現在は裁判官=のIDとパスワードを無断で使用し、メールを管理する米国の会社のサーバーに不正アクセスしたとしている。
米国の会社ということはgmailか何かかな。googleが日本の警察とどのようなやりとりがあったのか、証拠をどう確保したのか、興味のあるところである。
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コメント
電子カルテの共有化が進まない理由は、病院管理者がデータ漏出を恐れるためです。病院間での画像送受信すら、Internetを使うことは禁止であり、専用回線を引いて送受信してます。
専用線は遅く、高コストです。Skypeなら数十秒で遅れる画像が、数十分かかるのです。
投稿: 井上 晃宏 | 2010/06/25 14:23
暗号化性能の高いVPNが、もっと気軽に利用できるといいんですけどねぇ。
投稿: 藤川 | 2010/06/25 16:41
安珍と清姫は、どの時代でも、裁判所でも防ぎはできないのでありまする~。
投稿: bamboo | 2010/06/26 14:22
最近、NPOの仲間と激論になってようやく分かってきたのですが、ネット上のセキュリティ問題がどこから生じているのか?ということが、意外なほど伝わらない。
ザックリ言ってしまえば「人間はやれることをやるから、危険はある」と言うと「それじゃ何も出来ない」と話しが飛ぶ。
>やはりリスクはベネフィットとの関係で相対的に評価すべきであり、
>デジタル化とネットワーク利用による圧倒的な便益を前にすれば、
>適切に管理されたリスクは極めて小さく、ネット利用を諦めるほどの
>リスクではないと言うべきである。
この通りであるのだが「適切な管理」とは何か?という説明をわたしが出来ないから、わたしから見て「それは危険だ」という話を相手は納得しない。
現実に、事件が起きているわけではないのだが、「それは Winny の開発者と同じ言い分だ」なんてことになってしまった。
過度に警戒して、ネット化を否定したり、過度に楽天的に考えて「世の中に悪人はいない」という約束で物事を進めようとしたり、というのはどっちも同じなのではないか?と思うのだが、ひるがえって「適切な判断が出来る人」が多数派として世論を形成しうるのか?と考えると「全然ダメだ!」と思ってしまった。
つまりは、ネットワークリテラシーを高めるとするのか、ネットワーク免許制を推進するのか、罰則付きの法規制をするのか、どれでも良いのだが「基準を提示する」人が少ない、というどうにもならない状況なのではないか?と思うに至りました。
ネットワークが社会に定着したのが、21世紀に入ってからだとすると、2050年頃までは社会の常識になるのを待つべきなのかもしれません。
投稿: 酔うぞ | 2010/06/26 15:20
町村先生が実名報道に対してどのような見解を持っておられるか知りませんが、たとえ新聞報道の引用としても、このような微罪で被疑者の実名をそのまま転載する必要がどこにあるのか疑問を感じます。
投稿: あほ | 2010/06/27 19:14
あほさん、気がつきませんでした。
ご指摘有り難う。
投稿: 町村 | 2010/06/27 19:48