arret:所有権留保と対抗要件
自動車売買代金の立替払をし立替金等の支払を受けるまで自動車の所有権を留保す る者は,購入者に係る再生手続開始の時点で当該自動車につき自己を所有者とする 登録がされていない限り,上記所有権を別除権として行使することは許されない
本件では、販売会社に登録名義があり、信販会社は立て替え払いによりその留保所有権を代位行使するので対抗要件は不要だと主張し、原審はこれを認めた。
ところが最高裁は、信販会社が主張する留保所有権は立替金+手数料を担保するものであるはずで、販売会社の留保所有権は残代金債務のみを担保するものだから、販売会社の留保所有権が代位により移転するというのでは当事者間の合理的意思に反するとした。
その結果、以下のように判示した。
本件自動車につき,再生手続開始の時点で被上告人を所有者とする登録がされていない限り,販売会社を所有者とする登録がされていても,被上告人が,本件立替金等債権を担保するために本件三者契約に基づき留保した所有権を別除権として行使することは許されない。
確かに販売会社の留保所有権では信販会社の債権をカバーする担保として十分でないので、当事者意思としては信販会社自身の債権をカバーする留保所有権という構成が合理的であろうが、その結果、信販会社自身が担保について対抗要件を具備していないと対抗できないということになる。この後半の帰結は、果たして当事者の合理的意思に合致するものなのかどうか、疑問なしとしない。
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コメント
これって立替払が信販会社から販売会社になされたタイミングで
譲渡担保のように所有者登録を変えることはできないのでしょうか。
それとも今後はこうなっていくのでしょうか?
後半部分は他の債権者への「対抗」の問題ですので「当事者の合理的意思」のみでは説明がつかない問題かと
投稿: 故元助手A.T. | 2010/06/07 04:28
仰る通り、対抗問題は当事者の意思に左右されるものではありませんね。
ただ、この判決が当事者の合理的意思というフレーズで法律構成を構築した結果、倒産時に役立たずとなる担保権という、当事者の意図しない帰結に至るというのは、皮肉だなあと思ったのでした。
今後は、移転登録をするか、または初めから与信機関の所有名義に登録するかですね。移転登録もコストでしょうから、後者かな。
以前乗ってた車は、値引きの条件としてローンをくみ、販売会社の所有名義に登録されました。しかし、完済しても移転登録はしないで、販売会社の所有名義のまま最後まで乗ってました。それでも税金とか車検の実施や申請とか、問題がなかったので、コストをかけてまで移転登録はしませんでしたね。販売会社の所有名義のまま販売会社が倒産したらどうなるかなと、時々考えましたが、それは職業病ということで。
投稿: 町村 | 2010/06/07 06:20