FRANCE:裁判拒否で国が敗訴
このような衝撃的な見出しがLE FIGAROを飾っていた。
L'Etat condamne pour deni de justice
エクサンプロバンス控訴院がこの火曜日(2010/5/18)に判決を下した、1993年の離婚以来4人の子供と会えなかった母親のケースである。
このAFP電によれば、ツーロンに住むMichelleという61歳の元パラシュート部隊所属の軍人女性は、3人の娘と一人の息子の母親だが、16年間子供たちとは別れ別れで、その間1度だけ、末娘と1997年に会っただけだったという。
彼女は、1999年以来、幾度も元夫をnon-représentation d'enfantsの廉で刑事告訴し、30回以上も告訴したが効果がなかった。ただしいくつかの裁判は下された。
このような経過について、控訴院は、事案の単純さの程度と申請人の刑事手続進行に関するスキルのなさとを理由に、裁判所が事件を処理する期間を考慮すると、裁判拒否を認めるに至ったと判示し、国に5000ユーロの損害賠償を命じた。これは上記母親が一つの対審判決を得るのに5年も待たされたことに対する精神的苦痛を損害とするものである。
原告側弁護士はこの判決を高く評価し、これで家族事件に関する裁判が迅速になると期待でき、フランスの裁判所にとって誉れとなるような判断だと述べている。
なお、この件に関しては2006年に既にヨーロッパ人権裁判所が、申請人に有利な判断を下し、フランスの裁判サービスが「家族生活への権利を保護できないことによる重大な過失」を犯したと判断していた。
以上がLE FIGAROの要約だが、文中で出てきたnon-représentation d'enfantsとは、刑法典227-5条に規定されているもので、面接交渉(今風にいうなら面会交流)の定めを監護者が守らなかった場合に成立するもののようである。
Le fait de refuser indûment de représenter un enfant mineur à la personne qui a le droit de le réclamer est puni d'un an d'emprisonnement et de 15000 euros d'amende. 未成年子との面会を求める権利を有する者に、その子供を会わせることを不法に拒否した行為は、1年の拘禁および15000ユーロの罰金に処す。
日本法に置き換えてみると、ちょうど、ストーカー被害を何度も警察に訴えたのに何もしてもらえず、結果、重大な犯罪被害にあってしまったという事案で、警察の怠慢を理由に国家賠償を求めるというケースに相当しよう。
ただし、フランスの場合は、重大な犯罪に巻き込まれたわけではなく、もっぱら告訴に応じて迅速に対応しなかったことが重大な過失ととらえられているので、その点は日本とは全く違う。
ところでこの裁判拒否 denis de justiceという概念は、もちろん裁判権・法執行権を国が独占して自力執行を禁止している反面として、国の責務を表したものであり、さらに進んで「訴訟遅延は裁判拒否に等しい」という法諺も存在する。
フランスの実定法には、以下のような規定がある。
民法典第4条「法律の沈黙、曖昧、不十分を口実に裁判を拒否する裁判官は、裁判拒否の廉で有罪として訴追されうる。」
この規定はかのナポレオン法典以来の規定であり、言い回しや用語法が古風だ。
以上の他、裁判官を被告とする民事責任追及規定が民事訴訟法典366-9条に、また裁判官等に対する刑事訴追規定が刑法典434-7-1条に、それぞれ規定されている。
こうした個人責任追及規定は、日本にはないところだが、刑法典434-7-1条は日本なら裁判官の分限処分に相当するかもしれない。
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