arret:預金記録の開示
預金者が死亡し、共同相続人の一人が預金先金融機関に預金記録の開示を求めたところ、拒否されたので、その開示を求めたという事例。最高裁は、開示を命じた原判決を支持した。
金融機関は,預金契約に基づき,預金者の求めに応じて預金口座の取引経過を開示すべき義務を負うと解するのが相当である。 そして,預金者が死亡した場合,その共同相続人の一人は,預金債権の一部を相続により取得するにとどまるが,これとは別に,共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき,被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる(同法264条,252条ただし書)というべきであり,他の共同相続人全員の同意がないことは上記権利行使を妨げる理由となるものではない。
金融機関側は預金者の相続人に対する開示がプライバシー侵害・守秘義務違反になるとの世迷い言を言っているが、最高裁に一蹴されている。
民訴的には上記の判示事項中「共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき,被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる(同法264条,252条ただし書)」という部分に注目すべきであろう。
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コメント
世迷言を言っているのは最高裁に見えますがね。
だいたい、預金債権が準共有になっているという解釈をすれば何のトラブルも起きないのに、「金銭債権は遺産分割協議を待たず、相続開始時に分割される」という判例(最高裁S27(オ)1119)を守ろうとするから、「消費寄託債権は分割されているが、預金に伴う事務委任契約は準共有になっている」などという苦しい解釈が必要になってくる訳ですよね。事務委任って本人の死亡により終了するんじゃなかったのかね。終了後、委任事務を行えるのは「急迫の事情」があるときじゃなかったっけ。
さらに、「事務委任の有無によって口座取引経過照会に応じるか否かを決めろ」ということになるわけだから、今頃銀行の法務担当は頭を抱えているよ。「口座引き落とし契約のある普通預金は開示に応じるが、そうでない普通預金は開示に応じない」なんて預金者が納得する訳ないが、最高裁の理屈に従えば、そうなるしかない。
「民法907条共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。 」
「その協議で」ってはっきり書いてあるのに、金銭債権は協議なしで相続開始時に当然に分割されるという判例がそもそもおかしいんですよね。銀行の相続がらみのトラブルは、ほぼ全部最高裁S27(オ)1119が原因。「A銀行の預金は全部Xに相続させる」という遺言があっても、相続開始時に一旦法定相続分で相続人間で分割されているという立場を取る訳だから、トラブルが起きて当然。世間離れした裁判官は分からないかもしれないけど、実務をやってる人間にとっては、「いい加減にしろ」って感じ。
さっさと大法廷開いて、判例を変えてほしい。預金が遺産分割まで準共有だというのなら、銀行も気持ちよく相続人の一人からの請求に取引経過も残高も見せてあげるよ。
投稿: 元銀行員 | 2009/01/27 00:22
最高裁が世迷い言なのかどうかはともかくとして、預金債権の相続と別の形態で契約上の地位が移転するというのは面白い現象ですね。
投稿: 町村 | 2009/01/27 11:29