ソーシャル・レンディングmaneo
(タイトルは大杉謙一教授のご教示に基づき訂正。多謝)
ちょっと本当かと目をむいてしまいそうな話だが。
CNET Japan:日本初ソーシャルレンディング、「maneo」今秋にもオープン
インターネット上でお金を借りたい人と貸したい人を仲介する「ソーシャルレンディングサービス」が今秋にも誕生する。maneoは8月28日、金融庁への第二種金融商品取引業者の登録が完了したことを発表した。
そのサービスを提供するという会社のサイトを見ると、
金を借りる側の資格として以下のものが列挙されている。
1. maneoのメンバーであること (ID取得が必要です)
2. ボロワー申請段階で20歳以上、65歳未満であること
3. maneoの審査に通ること (審査内容に関してはお答えできません)当然、お借入の目的がはっきりしていることやきちんと返済ができることは必須条件です。
4. 税込年収300万円以上の方が対象となります。
これだけでは全くハッキリしないのだが、maneoを報じたJ-Castニュースには、以下のような記述がある。
maneoでは、実名、住所、顔写真を出さない匿名を原則とする。そのうえで、源泉徴収票などから年収を、全国信用情報センター連合会から借入状況を同社がチェックする。日本には、個人対象の格付会社はないが、同社で点数制の「maneo score」を作成し、判断材料にしてもらう。「例えば、バイクが好きな人のコミュニティを作り、趣味で人となりを表現してもらいます。そこで、匿名でも信用してもらえるようになれば、『うちの子も塾で大変だったので、お金を貸してあげたい』となるのでは。日本は、相互扶助の土壌があるので、次第に融資の抵抗感が減ると考えています」と広報担当者は言う。
と、匿名?とまずビックリするが、源泉徴収票と信用情報センター連合会のデータで信用調査をするとのことである。
そして、匿名のままコミュニティサイトで自己表現して、信用してもらえた頃を見計らって金を貸してもらうというのである。
なんだか、ある種の人びとのやり方を想起するのだが、いかがなものであろうか?
さて、同社サイトの貸す側の注意事項には、なかなか微妙なことが書いてある。
~匿名組合契約締結にあたってのリスク~
匿名組合出資は、元本が保証されているものではありません。
お客様は、maneo社が借入人に対して金員を貸し付ける事業に対して出資をすることになり、借入人からの貸付金の返済及び利息の支払いがお客様への出資金の返還及び利益分配に充てられることとなります。したがって、借入人からの返済が滞ったり、借入人の信用状況が悪化する等により、お客様に元本額が欠損する損失が発生する場合があります。
匿名組合というのは、なにやら秘密結社めいた言葉だが、商法535条以下に規定されている。
要するに、P2P(People to People)とされているが、実際にはmaneo社が営業者として貸し付けを行い、貸主はそれに対して出資をするわけである。
ただし、各貸主の利益配分は、自らがオークションで入札・落札した借主の元利金のみから払い込まれるのであろう。
法形式としては、maneo社が貸主からデポジットを集めて、これを借主に貸すという銀行まがいのことをすることになる。
しかし実質は、というかmaneo社のコンセプト上は、maneo社が貸主と借主との消費貸借を仲介するというものであり、借主の倒産リスクや不履行リスクはすべて貸主が負うということになっているのであろう。
回収行為をmaneo社がどこまでやってくれるのかは、はっきりしない。
ここで銀行まがいとあえて書いたのは、銀行ならば当然に課される厳しい認可基準がほとんど課されないまま、出資を元に貸し付けを行うという類似行為をするからである。プリペイドカードを発行する機関ですら、発行額の半分を引当金として倒産リスクをカバーしなければならないのに、このmaneo社は貸主の払い込んだデポジットについて、返済の引き当て財産はあるのであろうか? P2Pの貸借仲介というコンセプトからすると、全くないと考えるべきであろうか。
仮にそうだとすると、maneo社の債権者がデポジットの金銭に差押えをした場合には、あるいはmaneo社が倒産した場合には、貸主は単なる一般債権者となってしまうのであろう。
貸主となる人びとが街の金融業者でないのであれば、まともに返済されるのは僥倖であると覚悟した上でデポジットを払うべきであろう。それは極端な言い方だとしても、maneo社のサイトには「maneoのマーケットにおいては、お金を借りるヒトも、お金を貸すヒトも、自己責任の原則に従い意思決定を行っていただきます。」とか、「maneoのサービスに関する最高意思決定機関はお客さまであってほしい。」とか書かれているわけで、あくまで「自己責任」なのだ。
いやいやそうではなく、回収リスクはきちんとカバーする仕組みがあるし、デポジットの安全も確保する仕組みがあるというのであれば、是非教えてもらいたいところである。
ちなみに英国法人ZOPAが日本に上陸したことを伝えたニュースでは、
貸し手側は低リスクでありながら高利回りが期待でき、融資対象を自身で選定できることがメリット。
とある。
もうこれだけで詐欺決定みたいなうまい話なのだが、
同社は2005年3月に英国で設立。2007年末に米国とイタリアにも進出し、現在までに19万人を超える会員が登録している。
とのことである。
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コメント
年収300万円台はハイリスク層なので、消費者金融ネット版とのラベリングの危険が付きまとわないかと不安です。
願わくは、レンダリングがロンダリングに悪用されないように関係諸氏の御配慮を。
「匿名」というだけで日本では「卑怯者」と攻撃されるかも知れませんしw
投稿: ハスカップ | 2008/09/07 23:51
ごぶさたしております。
(賛否両論のテーマであることは承知していますが)、ソーシャル・ファイナンスの正の側面にも目を向けたほうが良いかもしれません(われわれ法律家は、知らず知らずのうちに規制強化派・現状維持派となりがちですので)。磯崎さんのブログ(http://www.tez.com/blog/ )の8月下旬の連載をご参照いただけますと幸いです。
なお、タイトルの「レンダリング」は「レンディング(貸付け)」のミスタイプかと思われます。「レンダリング」だと「数値データとして与えられた物体や図形に関する情報を計算によって画像化すること。一般的には3次元グラフィックスを描画することを指すことが多いが、 広義にはデータの可視化一般を指す」になってしまいますが、「ロンダリング」にも間違われそうで、怖い・・・
投稿: 大杉謙一 | 2008/09/08 09:53
大杉先生、大変ご無沙汰しております。
タイトルの件、大間違いでしたね。お恥ずかしい。
そりゃあ、正の側面はあるでしょう。
ただ、こうした問題を考える上では、先物取引の教訓が適切です。
様々な市場での先物取引が、市場の自律性に必要な装置であり、またリスクヘッジの手段でもあるように、正の側面があるわけです。が、それを一般の素人さんにもやらせてよいとしてしまったために、また素人さんに絶対儲かるからと金を出させるやり方を野放しにしてしまったために、どれほどの被害が発生したか。
せめて適合性原則を初めから取り入れた取引ルールにしておくべきだったし、一般消費者をハイリスクハイリターンに巻き込んでおいて自己責任を問うのは、そもそも間違っているところがありました。
さて、先物取引が消費者を対象として広がり始めた頃、法律家が規制強化派・現状維持派となりがちだった歴史はないように思いますが、どうなんでしょうか? 声が小さかっただけかな?
ともあれ、レンダリングとレンディングの違いも見分けられないレベルですので、まずは教えていただいた磯崎さんのブログから勉強してみます。
投稿: 町村 | 2008/09/08 10:19
町村先生、早速取り上げてくださってありがとうございます。
私自身は、こういった動きの正の側面と負の側面の両方が気になるので、とてもコメント欄には思うところを書ききれませんが、今後の動きを注視したいと思います。
投稿: 大杉謙一 | 2008/09/09 17:40