arret:詐欺師には詐欺道具として交付された金銭も返さなくて良い
ヤミ金ケースについて、元本も返さなくて良いという最高裁判決がつい先頃あった(arret:ヤミ金元本吐き出させ事件参照)が、それと類似の判断である。判決文中でも引用されている。
こちらは米国債のペーパー商法詐欺で、配当金名目で一部の金員を被害者に支払った場合に、その支払い分は損害賠償から差し引かなくとも良いと判断したものである。
ここでも田原裁判官は、破産実務の専門家らしい見地から、多数意見に反対意見を述べている。
被害者が実際に被った金銭評価の問題だから、詐欺の過程で交付された金員を差し引かないと、配当金名目の金銭を受け取った被害者とそうでない被害者とが区別できなくなり、被害者相互でのパイの奪い合いとなる破産のような場面では困難を来すというのである。
不法原因給付については「不法原因給付の研究」という谷口知平先生の著書がある。
追記:田原判事の反対意見はともかくとして、本判決の影響はかなり大きいだろうし、数ある違法な詐欺商法について、被害者救済の実質を向上させる可能性を秘めている。
実損害額は、田原判事が言われるように、支出額−受領額になるのだが、詐欺被害者の損害はそれだけではない。詐欺被害の回復に必要な弁護士費用、そして詐欺による精神的苦痛も損害であり、本来であれば全額回復されるべきものである。
ところが現実には弁護士費用も請求額の1割を目安とした定額で、実際に弁護士さんがどれほど努力を傾注しようとも原則として算定に跳ね返らない。精神的苦痛も、取引的不法行為の一種とみなされれば、認められない可能性が高い。
もちろん、その代わりに受領金銭を返還しなくて良いというのは少々筋が悪く、本来なら損害額をきっちり算定して満額とれるとした方がよいと思うが、損害算定に法的評価が深く関わっている以上、損害を切りつめる方向だけでなく、損害をふくらませる方向の評価もあるというのが公平に適う。
本来は、犯罪収益や不法収益の吐き出しを民事法上で実現させる方策を、正面から検討すべきである。
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