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2008/03/27

jugement:カルテの一部紛失と顛末報告義務違反

大阪地判平成20年2月21日(PDF全文)

1 医師(医療機関)は,患者から診療や治療の結果等のてん末について説明・報告を求められたときは,その時期に説明・報告することが相当でない特段の事情がない限り,診療契約に基づき当該事項を説明・報告する義務を負う。
2 手術の結果予期しない重篤な後遺症が残った患者から手術のてん末について説明を求められた医師(医療機関)が診療録を示すことができなかったことについて,当該診療録を示せないことが紛失によるものであったとしても,当該医師(医療機関)には診療契約に基づくてん末報告義務の不履行があるとされた事例

この前提として、医療過誤を理由とする損害賠償請求訴訟の後に、上記の顛末報告義務違反に基づく損害賠償請求の訴えを提起することが、既判力にも信義則にも抵触しないとされている。

医療過誤訴訟自体は請求棄却判決が確定したのだが、それに関連して診療記録の一部を開示しないことが顛末報告義務違反となるとされた事例である。
「被告において本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①を紛失したために原告に開示できなかったとしても,被告は,本件入院カルテ①ないし⑥及び本件手術関連記録①を原告に開示できなかったのであるから,診療契約上のてん末報告義務違反として債務不履行責任を免れない。」

この前提として、そもそも顛末報告義務としてカルテ等の開示が必要であるとする論理は以下の通り。

「診療契約とは,患者等が医師ら又は医療機関等に対し,医師らの有する専門知識と技術により,疾病の診断と適切な治療をなすように求め,これを医師らが承諾することによって成立する準委任契約であると解され,医師らは民法645条により,少なくとも患者の請求があるときは,その時期に説明・報告することが相当でない特段の事情がない限り,本人に対し診療の結果,治療の方法,その結果などについて説明及び報告すべき義務(てん末報告義務)を負うといえる。
 もっとも,医師らの患者に対する説明,報告の内容,方法等自体が委任者である患者の生命,身体等に重大な影響を与える可能性もあることから,患者に対する説明,報告の内容,方法等に際しては医師等の専門的な判断も尊重されるべきであり,医師らに一定の裁量が認められ,てん末の報告も,事案に応じて適切な方法で行われれば足りるというべきである。そして,医師らが適切な方法でてん末の報告を行う場合に,診療録等を示して行う必要があるか否かは,当該診療の内容,医師らが行った説明,当該診療録等の記載内容の重要性,医師らが当該診療録等を示すことができない事情,患者がてん末報告のために診療録等を示すよう求める理由や必要性,報告時の患者の症状等の具体的事情を考慮して決すべきものと解される。」
(中略)
「原告にとっては予期しない身体障害1級という重篤な後遺症を有するに至っているのであるから,原告が,診療の経過について,診療録等に基づいて具体的な詳細を知りたいと考えることには十分な理由がある。また,診療録を示しててん末の報告を行うことに支障があったとはいえない。そうすると,被告は,原告に対し,診療録等に基づいててん末報告を行うべき義務を負っていたものと解すべきである。」

つまり、本件具体的な事案の元では、カルテ等を示して具体的に顛末報告を行う義務があったのに、それをしないできたことは、例えカルテ紛失という事情があったとしても、義務違反として債務不履行責任を負うというわけである。
なお、証拠保全の際に提出しなかったとか、偽証したとかという事情は、顛末報告義務の履行とは異なるというのである。

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コメント

 一事不再理?

投稿: rijin | 2008/03/28 11:47

医療事故の責任があるかどうかということと、カルテを見せて説明しなかったことの責任があるかどうかは別々に訴訟で決められるということですよ。

投稿: 町村 | 2008/03/28 11:51

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