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認知戦

2022年8月に Operation Z と云う本を出した元スイス諜報官ジャック・ボー氏の見立てでは「ロシアの攻勢が始まって以来、戦争の仕方について2つの方法を区別することが出来ます。ウクライナ側では、戦争は政治的・情報的空間で繰り広げられ、ロシア側では、戦争は物理的・作戦行動的空間で繰り広げられます。両者は同じ空間で戦っていません。」まぁその通りだと思う。特に報道に関して、あれらは戦争「について」語っている訳ではなく、あれら自体が戦争遂行の一環であり、情報による世論操作、合意の捏造、認知戦場に於ける人々に向けた心理攻撃の一種なのだと云う点を押さえておかなければ、何時まで経っても現実離れした妄想戦記の世界から抜け出すことは出来ないだろう。ウクライナが勝っているのは、最初からTV画面の向こうの仮想現実の中でだけだ。
Operation Z – a new interview with former Swiss Intelligence officer Jacques Baud

2022/08//24のジェフリー・サックス氏の論説。「戦争の最初の犠牲者は真実だ」と云う名言が有るがその通りで、現代の戦争や紛争やジェノサイド等は必ず巨大な嘘で武装されている。サックス氏が挙げているのは氷山の一角に過ぎないが、例えば「ロシアや中国がフェイクニュースを流している」と云うのは西側が流しているフェイクニュースだ。私達の認知的枠組みがナラティヴ管理によって操作されていることに気付かなければ、本当の戦争反対など不可能。西側大手メディアによる「報道」は基本的に新冷戦に於ける情報攻撃の一環だと心得ておいた方が良い。
The west’s false narrative about Russia and China
No. 1548 ロシアと中国に関する西側の誤ったナラティブ

EUの外務・安全保障制作担当のジョセップ・ボレルは反ロシアプロパガンダを繰り返す論説の中で、「物語(ナラティヴ)の世界的な戦いは本格化しており、今のところ、私達は勝っていない」と書いている。やはり現代のハイブリッド戦争に於て最も重要な兵器はミサイルでも戦闘機でもなく、情報だと私は思う。情報の中でも「物語」は様々な嘘によって引き起こされる認知的不協和を自動的に補完してくれる便利な機能を持つので、最も重要だ。偏向情報やフェイクニュースを只積み上げるだけでは効果が弱いのだ。ウクライナ紛争にしてもCOVID-19「対策」にしても、人心を動員する上で肝心なのは点と点を繋ぐ物語、或いは世界観であって、多分単純な事実によって抵抗するだけでこれに勝利することは難しい。抵抗する側にも行動を導く「物語」が必要だろう。

G20: difficult times for multilateralism

2019年10月にイスラエル情報遺産記念センター(IICC)の情報方法論研究所(IRMI)と国家安全保障研究所(INSS)が共同で発表した「認知キャンペーン:戦略的・諜報的視点」。認知キャンペーン、即ち標的となる観客の認知に影響を与え、望ましくない認知状態の発達を防ぐことは、今や国家安全保障の中心的な要素であると位置付けられている。人々の現実認識をどう操作するかが、戦時は勿論平時に於ても極めて重要な国家の課題なのだ。現在の新冷戦ハリブリッド戦争に於て最重要の兵器はミサイルでもドローンでも核兵器でもAIでもなく、情報操作だと言っても過言ではないだろう。2022年2月以降のウクライナ紛争の西側市民の認識の仕方を見てもそれは解る。この報告書の中でロシアやイランの脅威として挙げられているのは何のことはない。西側自身がやっていることをその儘裏返しただけだ。

The Cognitive Campaign: Strategic and Intelligence Perspectives
 この報告書のことはMintPressのこの記事で知った。
COGNITIVE WARFARE: ISRAEL TARGETS JOURNALISTS WHO THREATEN ITS REALITY-CREATION TACTICS

ウクライナ紛争に関するコリブコ氏のウェビナーでの発言:「この世界の大多数は、ロシアと西洋の競争の真の認知戦の戦場です」。ロシアも西側諸国も自らの地政学的目標を達成する為に様々な手法を用いているが、概してどちらも自国内の人々に影響を与えることには成功しているが、他国に対してはそうではない(中国やインド等の非西側諸国は中立を守るか、西側のパートナーと協力してロシアに対して制裁を課すことを拒否している)。
The Geopolitical Dimension Of Cognitive Warfare In The Ukrainian Conflict

ティエリー・メイサン氏による論説。西側は純軍事的にはウクライナでロシア軍に負けているが、自国民に対する認知戦には圧勝している。戦争プロパガンダは新たなステージへと変貌し、第一次大戦が誤情報、第二次大戦が選択されたメッセージの繰り返しに基付いていたとしたら、ウクライナ紛争は奇術に基付いている。これはNATOの認知戦の概念が適用された初めての事例と言える(とメイサン氏は言っているが、似た様な事例ならこれ以前にも何度も見られたのでは?)。
The war propaganda changes its shape

ウクライナ紛争に限らないが、帝国主義勢力によるプロパガンダと知覚管理は人々の世界観を歪めることに大成功している。これは認知戦であって、ロシアと同時に自国民が標的にされている。
PATRICK LAWRENCE: The Casualties of Empire

「認知戦争に於て、武器はあなたです!」
 常態化する「識閾化の紛争」に於ては、私達全員が参加者になり、社会全体が戦場になる。私達は普通に暮らしているだけで知覚や思考や行動を操作され、特定の戦略的目的達成の為に利用されることになる。
158. In the Cognitive War – The Weapon is You!

関連スレッド。前掲の報告書の目次と注目箇所の訳を連ねている方が居た(但しNATO側の主張を真に受けている点で私とは解釈の方向性が異なる)。
Oーrora ✨🎗️🌏💖💫 @os3578

認知戦争についての2020年11月の基本的報告書。
NATO-cognitive-warfare-reportのコピー
Cognitive Warfare

1990年代に登場した「認知戦争 cognitive warfare」と云う用語が、諜報活動、監視・偵察、電子戦、心理戦、サイバー戦を包括して統一し、更に進化させた情報戦争の概念として今注目されている背景を概説した記事。
Cognitive Warfare

認知的バイオテクノロジー(CBT):生物物理学的、生化学的、生物工学的手段によって人類生理の限界を拡張・増強する(思考、感覚、調整、行動)。修復、増強、置換の基本3パターンが想定されている。
Cognitive Biotechnology: opportunities and considerations for the NATO Alliance

認知戦争についてのNATOのレビュー。
「認知戦争では人間の心が戦場になる。目的は人々の考え方だけでなく、考え方や行動を変えること。(略)それは潜在的に社会全体を破壊し断片化する力を持つ為、敵の意図に抵抗する集団的意志は最早存在しなくなる。敵は武力や強制に訴えること無く、社会を制圧することが出来るだろう。」

 単発の認知戦争キャンペーンの目的は例えば
 ・軍事作戦が計画通りに行われるのを防ぐ。
 ・特定の公共政策の変更を強いる。
 ・政府についての疑念を植え付ける。
 ・民主的プロセスを転覆する。
 ・分離主義を煽る。
 (後の3つは長期的には社会全体や同盟関係の混乱が目的)

 認知戦争は「サイバー、情報、心理、社会工学」を利用し、「疑念を撒き、矛盾する物語を広め、意見を二極化し、グループを過激化し、まとまりの有る社会を混乱させたり断片化したりする可能性の有る行動に駆り立てる」ことを目指している。

 「私達の認知能力は、ソーシャルメディアやスマート・デバイスによっても弱体化する可能性が有る。」それらは「ゆっくり考える」(合理的に、思慮深く)のではなく「素早く考える」(反射的に、感情的に)ことを奨励する。
Countering cognitive warfare: awareness and resilience

エアロゾル化された状態で吸い込まれると人間の脳に浸透し、パルス・マイクロ波による操作を受け易くなるナノマテリアルなるものが現実に開発されている。話しているのはSF作家ではなくDARPAのJames Giordano博士で、聴衆は米士官候補生達。
Dr. James Giordano: The Brain is the Battlefield of the Future

神経系に介入することによって人間の知覚、感情、思考、記憶、行動等を操作する技術は現実に存在し、研究も進んでいるが、それらに関する国際的な規制は現在存在しない。
Is Mankind Able to Prevent Abuse of New Technologies Against Democracy and Human Rights?

サイバー戦争についてだが、英軍のニック・カーター将軍は2019年のCliveden Literaryでの講演で、
「現代世界では平和と戦争の区別は最早存在しない」
「競争と紛争の間に明確な線引きを行うことは最早不可能である」
と発言し、情報こそが全てを繋ぐ鍵であると強調。
Britain Is ‘At War Every Day’ Due To Constant Cyber Attacks

NATOのイノヴェーション・ハブより。
「認知! 認知は人間の行動の基盤です。それは重心であり、永続的な攻撃の標的です。」
「強制を伴わずに、あなたの望む様に人々を行動させる最善の方法は、人々が如何に情勢を理解するかを誘導してやった上で、決定を下させることです。最善の方法は彼等の認知を誘導してやることなのです!」
COGNITION !

架空の話ではあるが、NATOオペレーション2040関連のエッセイで「2022年の世界経済フォーラムに於て、『悪意有るマインド・ハッキング』についてのグローバル・リスク報告書が発表され、耳目を集める」と云うシナリオが描かれている。2022年に米独仏日ノルウェーによる"Fivebrainsinitiative”が宣言された後、2026年ブリュッセルのNATOサミットで、「人間の心は陸海空、サイバー、宇宙に続く第6の作戦領域である」との宣言が出されるシナリオことになっている。
Weaponization of neurosciences

「神経科学(ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、情報技術、認知科学、略してNBIC)の兵器化」は、国家&非国家主体に真のゲームチェンジャーを提供する。陸海空、サイバースペース、宇宙の次の戦場は人間の心。
WEAPONIZATION OF NEUROSCIENCE

小説形式で知る、「2040年のNATOの戦場は例えばこうなる」。
 書いたのは大西洋評議会フェローで国際戦略研究所メンバーであるジャーナリスト、オーガスト・コール。正直言って最近のハードSFの様に、具体的に何が描かれてあるのか私にはよく解らなかった。
KNOWN ENEMIES (BY AUGUST COLE)
オーガスト・コールと云うのはこんな方。
August Cole
このオーガスト・コールと云う方、日本ではこんなトンデモ軍事小説が訳されている様だ。
中国軍を駆逐せよ! ゴースト・フリート出撃す(上)

・遺伝的強化
・ナノテクノロジー形態の神経補助
・神経インターフェース
これらに共進化するのが、NATOが考えるこれからの戦争形態。合成生物学やナノテクがビッグデータと融合し、新たな知性形態を生み出す。戦争の為にヒトの在り方そのものが変えられようとしている。

「どの様に達成されるかに関わらず、強化された人間の知性は新しい社会的現実、新しい多元主義を創造する様に思われます。社会が具体的にこれらにどんな意義や立場を割り当てるかに応じ(略。機能強化された人々は)自分達がより一般的には様々な存在形態に在ることに気付くかも知れません。」

「これは、社会の構成員達を異なるグループに再編成することを余儀無くさせるかも知れません。つまり、有意義な参画を行う知性の無い人と、比較的少数にせよ、社会内の知的及び政治的領域を支配するかも知れない人とにです。」
INTELLIGENCE AMPLIFICATION

・埋め込み型バイオエンジニアリング装置
・ブレイン=マシン・インターフェース人口装具
・埋め込まれた合成DNA構築物
・ニューラル・ナノテクノロジー
NATOはこれらで2040年を目処に人間の知性に「劇的な影響」を与える積もりらしい。
INTELLIGENCE AMPLIFICATION

米帝主導のNATOのハイブリッド戦争は、経済戦、サイバー戦、情報戦、心理戦に加え、「認知戦争」の概念を導入。「脳科学の兵器化」によりあらゆる個々人をハッキング対象に。これはサイバー、偽&誤情報、心理的、社会工学的機能の統合を含み、武器ではなく影響力を重視。
Behind NATO’s ‘cognitive warfare’: ‘Battle for your brain’ waged by Western militaries
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川流桃桜

Author:川流桃桜
一介の反帝国主義者。
2022年3月に検閲を受けてTwitterとFBのアカウントを停止された為、それ以降は情報発信の拠点をブログに変更。基本はテーマ毎のオープンスレッド形式。検閲によって検索ではヒットし難くなっているので、気に入った記事や発言が有れば拡散して頂けると助かります。
全体像が知りたい場合は「カテゴリ」の「テーマ別スレッド一覧」を参照。

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