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核の脅威を解明する:過去と現在の現実

2023/07/12のダン・スタインボック博士の記事。全世界に核による滅亡の脅威を齎しているのは、最初から終始一貫して米国であり、それ以外の国ではない。

 ロシアやDPRKや中国やイランは核による先制攻撃ドクトリンを持っていない。イランはそもそも核を持っていないし(持っているのは「核エネルギー=原子力」だけだが、日本語では恐らく意図的に「核」と訳されている)、他の3ヵ国は米国の核による威嚇から自国を守る為に抑止力として核を保有している。アメリカ帝国が他国を脅迫して支配下に置こうとすることが余りにも常態化しているので、その異常さが目に入らなくなっている人が多いだけで、こうした状態は国家間の主権平等を謳う国際秩序に於てはそもそも許されることではない。

 反核主義者達はどの国であろうとあらゆる核兵器が地上から消えて欲しいと願っている。そうなれば確かに全人類にとってどんなにいいか分からないが、実際に核の先制使用の脅威が存在する以上、現実問題として、それを抑止する為には対抗する核能力を持つ以外に恐らく有効な選択肢は無い様ではある。ゴルバチョフが一方的に核軍縮を進めた結果、アメリカ帝国は旧冷戦勝利宣言を行ってソ連を分割して政治的・経済的に侵略してその尊厳を奪った。プーチンは大統領就任以来一貫してNATO陣営との和解を試み、ロシアを軍事的に威嚇することの無益さと危険性を説き続け、安全保障問題を外交的に解決しようと試みたが、西洋はロシアのレッドラインを無視し続け、結局は全ての交渉努力が無駄に終わった。そもそもソ連や中国が核を早い段階で手にしていなければ、核の雨を伴う第3次世界大戦が始まっていた可能性は非常に高い。

 因みに『ランド 世界を支配した研究所』に拠ると、ワシントンの連中はヴェトナム戦争が始まって随分経って劣勢が否定出来なくなるまで、ヴェトナム人は共産主義イデオロギーを世界に広める為に戦っている狂信者ではなく、単に自国を占領者/植民地勢力から解放しようと戦っているナショナリストであることが本気で理解出来ていなかったらしい。自分達自身の自由と独立の為に戦っている人間はどんなに苦しい戦いでも最後まで諦める筈は無いのだが、米帝は敵の根本的な姿を見誤って過小評価していたからこそ自分達が勝てると思い込んでいた。他国の人間を自分達と対等の存在と見る想像力を持ち合わせず、従って彼等が自己利益に従って行動していることを理解出来ず、その所為で戦況全体を見誤る、と云う過ちは、現在のウクライナや西アジアでも繰り返されている。
Unveiling the Nuclear Threats: A Reality of Past and Present



 2023/06/16、ダニエル・エルズバーグが92歳で亡くなった。

 彼は米空運のランド研究所で、ヴェトナム戦争に関する47巻の極秘の機密文書の研究に携わった。1950年代からこの戦争は「勝てない」と認識されていたにも関わらず、アイゼンハワーからニクソンまで、歴代の大統領達は紛争について嘘を吐いていた。エルズバーグが機密文書のコピーを公開した為、7,000ページに上るこの文書は「ペンタゴン・ペーパーズ」として知られる様になった。

 しかし1958〜71年の彼の主な仕事は、アイゼンハワー、ケネディ、ジョンソン、ニクソン政権の核戦争計画だった。

 彼の見解では、トルーマンからトランプまで、略全ての米国大統領は、「米国が近い内に戦術的または戦略的な核戦争を開始する可能性に備えて、本格的な準備を検討または指示した。」

 殆どの計画は、ソ連、北ヴェトナム、北朝鮮、それにイラク、イラン、インド、リビアに焦点を当てていた。

 中国の場合、朝鮮戦争(1950年)と台湾海峡危機(1954~55年、1958年)に於て北京が一役買ったことが米国の核計画のきっかけとなった。

 最近まで、エルズバーグがロシア、中国、そして全世界の指導部を排除するペンタゴンの核計画に関するファイルもコピーしていたことは知られていなかった。



 自動操縦の核で中国の首を斬れ

 2021年5月、ニューヨーク・タイムズは、1958年の台湾海峡を巡る緊張の中で中国を核攻撃する案についてのエルズバーグの機密文書を公開した。

 ペンタゴンの指導者達は、当時の中国の同盟国であったソ連が報復し、何百万人もの人々が死ぬかも知れないと考えていたにも関わらず、先制攻撃の選択肢を推し進めていた。

 著書 The Doomsday Machine: Confessions of a Nuclear War Planner(邦訳:『世界滅亡マシン 核戦争計画者の告白』)(2017年)の出版後、エルズバーグはバイデン大統領と議会に注意を促したが、メディアの無関心にもうんざりしていた。

 ウクライナ紛争以来、米国とNATOはロシアを侵略に関与していない中国と結び付けて来た。

 2022年10月までに、バイデン政権は「中国とロシアの核の脅威」に対する冷戦戦略を発表したが、その過程で、歴史的現実は引っ繰り返された。

 上記の本に拠ると、エルズバーグがこうした現実を初めて知ったのは、ケネディ大統領が統合参謀本部に発した質問に基付く極秘文書を読んだ時だった。

 「諸君の全面(核)戦争計画が計画通りに実行された場合、ソ連と中国で何人の人々が殺されることになるのか?」

 その総数は幅が有り、2億7,500万から3億2,500万人程度だった。

 実際、米国の核戦争計画は「中国とソ連を『生存可能な』社会として破壊すること」を目指していた。

 *2016年に国家安全保障アーカイヴが公開した機密文書に拠ると、1956年の米国の核攻撃目標は1,100ヵ所。これには東欧、ロシア、中国、DPRKが含まれていた。


 
 尚悪いことに、核戦略は「全面戦争」と結び付いており、北京がその様な紛争とは全く無関係だった場合でも、ソ連(現在のロシア)と中国に対する先制攻撃を正当化するものだった。

 ​​そこでエルズバーグは大統領の署名を得て、司令官達に米国の攻撃による世界の死者数の内訳を要求した。

 東欧では、ワルシャワ条約機構の基地と防空網への直接攻撃と放射性降下物によって、更に大体1億人が死亡すると予測されていた。

 西欧で放射性降下物による死者が更に1億人、ソ連圏と中国に隣接するフィンランド、スウェーデン、オーストリア、アフガニスタン、インド、日本等の主に中立の国々で、更に1億人。

 死者総数は大体6億人になる。これはホロコースト100回分に相当する。



 真の「最終的解決」

 エルズバーグが探り出した様に、ソ連の突然の核攻撃を阻止したり、その様な攻撃に対応したりすることは、米国の核計画と準備の唯一または主要な目的だったことは一度も無かった。

 本当の目的は、ソ連またはロシアに対する米国の先制攻撃に対する、ソ連またはロシアの報復による米国への損害を限定的なものに留めることだった。

 「核の冬」と「核の飢餓」の壊滅的な影響は、どちらも1980年代初頭から知られていたが、核計画者達はこれらを組織的に無視している。

 米国の熱核戦争計画が実行されれば、それは「燃え上がる数百の都市で激しい火災が発生し、煙と煤が成層圏まで舞い上がって雨を遮り、10年かそれ以上そこに留まり続ける」ことを意味する。それは地球を覆い、殆どの太陽光を遮ることになる。それによって地球の年間気温は前回の氷河期のレヴェルまで下がり、世界中の全ての作物は斃れ、「1、2年以内に略全世界が飢餓に陥る」ことになる。

 後にマクナマラの国防次官補を務めたジョン・H・ルーベルは、回想録 Doomsday Delayed(延期された終末の日。2008年)で、1960年春にそうしたシナリオが初めて高官レヴェルで提示された時のことを回想している。

 それに拠ると、放射性降下物だけでソ連の人口の半分以上が死に、中国人全6億人の半分が死ぬことになっていた。

 それはドイツ系ユダヤ人の血を引くルーベルを恐怖させた。彼は1942年1月のヴァンゼー会議のことを​​考えた。当時、アドルフ・アイヒマンを含むSS官僚達が、ヨーロッパから最後の一人に至るまでユダヤ人を絶滅させる計画に同意し、技術的に効率的な大量絶滅方法を採用した。

 「暗闇の奥深く、薄暗い地下世界に降って行く様なことを目撃している気分だった。そこは規律正しく、几帳面で、精力的なまでに愚かしい集団思考によって統治されていて、地球上の約1/3に住む人々の半分を一掃しようと狙っているのである。」

 そして今度は、ソ連司令部の斬首計画についての公開討論が行われた結果、米国が報復として確実にモスクワやその他の司令センターを破壊出来るようにする「死者の手(Dead Hand)」委任システムに繋がった。他の核保有諸国も同じ足跡を辿った。



 「終末の日」は儲かる

 核の備えは安くはない。

 2021〜30年の米国の核戦力の予想コストは、合計6,340億ドルと見積もられている。これ等の費用の2/3は国防総省が負担するが、弾道ミサイル潜水艦と大陸間弾道ミサイルへの支出が最も大きい。

 エネルギー省の費用は核兵器研究所と支援活動に充てられる。

 これらの支出の主な受益者は、新たな核輸送手段の主要な請負業者達と、国家核兵器複合施設の運営者達だ。グローバルな請負業者と運営者の小規模な寡占階級、つまりビッグ・ディフェンスが利益を貪ることになる。

 ノースロップ・グラマンは32州で、新しいICBMの主要なサプライヤーとなった。その12大下請け企業には、ロッキード・マーティン、ジェネラル・ダイナミクス、L3ハリス、エアロジェット・ロケットダイン、ハネウェル、ベクテル、レイセオンの航空宇宙部門等、国内有数の防衛企業が含まれている。

 2012〜20年、これらの大手防衛コングロマリットは、2020年だけで380人のロビイストを雇用し、1億1,900万ドル以上の選挙資金を費やした。

 その金の2/3以上は、議会、国防総省、エネルギー省のトップから「回転ドア」を通って、核兵器請負業者の幹部や取締役へと回る。そしてその逆も然り。

 通常、国防長官は国防総省入りする前に、主要な核兵器請負業者のロビイストや取締役を務めた経験を持っている———ジェイムズ・マティスはジェネラル・ダイナミクス、マーク・エスパーやロイド・オースティンはレイセオン。

 これに加えて、ビッグ・ディフェンスは、核兵器に関する「独立した分析」を行うシンクタンクの支援に数百万ドルを費やしている。これらのシンクタンクは自分達にエサを与えてくれる手を舐めながら、その見返りとして、ロシアの近傍諸国や、米英豪の3国間安全保障協定AUKUSを通じてアジアへの核投資の拡大を推進している。



 終末マシンを解体せよ

 それで今はどうなっているのだろう? 終末の日計画、 正式には単一統合作戦計画(Single Integrated Operational Pla/SIOP)は、2003年まで毎年更新され、その後2012年に改訂されるまで、OPLAN 8010-12、「戦略的抑止力と武力運用」によって置き換えられた。

 その基本計画は今尚、「ロシア、中国、北朝鮮、イラン、シリア、及び非国家主体による大量破壊兵器攻撃」に向けられていると考えられている。

 今や米国の核計画に於て最重要であるロシアに関して、また重要度を増しつつある中国に関してさえ、ペンタゴンと諜報コミュニティは「(米国に対する)武装解除目的の先制攻撃は恐らく起こらないだろう」と考えている。

 だが、60年以上前と同じく、そうした評価は認識に左右されるものであり、この所為で1960年代以降、幾つもの誤警報が発生した(それらの幾つかは政治的に致命的だった)。

 終末時計が証明している通り、人の手によって地球の破滅が引き起こされる可能性は今日、第2次世界大戦以来最も高い。

 米国や他の核保有諸国の終末マシンを解体することこそ、持続的な平和、そして地球の存続を保証する唯一の実行可能な方法だ。
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川流桃桜

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一介の反帝国主義者。
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