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ソマリランドとのエチオピアと港湾協定は外交上の大成功(抄訳)

アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。2024/01/01、エチオピアはソマリランドと港湾協定を結んだ。リスクも伴うがこれは外交上の傑作であり、成功すればソマリランドの独立承認を推進し、港湾確保問題を平和的に解決することで内陸国であることから生じる諸問題を防止し、互恵的関係を通じて相互利益を確保することが可能であることを証明するだろう。
Ethiopia’s Port Deal With Somaliland Is A Diplomatic Masterstroke
Ethiopia’s Port Deal With Somaliland



エチオピアがソマリランドと港湾協定を結ぶ

 2024/01/01、エチオピアと(ソマリアからの分離独立を主張している)ソマリランドは、エチオピア航空の株式と引き換えに、エチオピアに対して海軍基地を含むソマリランドの港へのアクセスを許可する覚書に著名した。



 背景としては、内陸国であるエチオピアのアビィ首相は2023年に海洋政策を復活させ、これに絡む国内問題を防止しようとした。急速に拡大する人口を考えると、紅海へのアクセスが無ければ経済成長が制限され、その政治的・安全保障上の影響も無視出来ない。

 エチオピアはこれまで世界経済にアクセスする為に、高額な港湾使用料金を払って隣国ジブチに依存していたが、ここ数年で劇的な展開を経てからは、これらの負担は更に重くなっている。

 COVID-19「対策」は既存の債務問題を悪化させ、2020〜22年まで2年間続いた北部紛争の所為で更に悪化した。これに加えて深刻な旱魃が予算を圧迫し、財政上の課題を更に複雑にした。そして紅海の軍事化は海上物流(特に肥料と燃料)を脅かしているが、エチオピアの経済的安定とそれに伴う全てはこれに依存しており、海軍無しではこれを守ることは出来ない。

 これら様々な要因が重なった結果として、これ以上この問題を放置すれば、エチオピアは簡単に不安定化する。

 そこでアビィは、エチオピアの国営企業の株式と引き換えに、商業-軍事港をリースすることを提案した。だが近隣の沿岸諸国はそうした協定には興味を示さなかった。

 更に米国がここに介入したことによって、沿岸の隣国エリトリアでは、エチオピアは武力に訴えて近隣諸国の併合を企んでいるのではないかと云う憶測が広まることになったが、これは西洋がアフリカの角地域を分断統治するのが目的だった。

 協定の提案を断られたこと自体は残念なことではあったが管理可能な自体だった。だが恐怖を煽る情報戦キャンペーンは戦争が近いのではと云う懸念を広げて両国に安全保障上のジレンマを生み出すことになった為、シャレにならない。この噂は或る程度までは、エチオピアの封じ込めを狙ったエリトリアの諜報機関によって画策された可能性を排除することは出来ない。

 こうした事情によって、2023年末の時点では、エチオピアが紅海に面した港を平和的な手段で獲得することは非常に難しくなっていた。この点を踏まえておけば、エチオピアがソマリランドとの覚書に署名したことがどれだけの成功だったかを理解することが出来るだろう。



ソマリランドとの協定が抱えるリスク

 この創造的な解決策によって、エチオピアはエリトリアとの間の安全保障上のジレンマを回避することが出来る様になった。但し、リスクが全く無い訳ではない。

 ・ソマリランドは国連ではソマリアの不可分な一部として認められているので、ソマリア側ではこれは内政干渉であるとして激怒している。但しソマリアは30年以上もの間、ソマリランドに対して何等具体的な影響力を持っていなかった。

 ・恐らくエリトリア諜報機関も戦争の火を煽ろうとして情報戦キャンペーンを強化するだろう。エリトリアは「エチオピアはならず者国家」とその評判を貶め、分断統治を狙っている。

 ・エリトリアはまた、エジプトと共にソマリアとの軍事関係を拡大しようとする可能性が高い。エジプトはグランド・エチオピア・ルネッサンス・ダムを巡って、アフリカの指導者として平和的に台頭しつつあるエチオピアと何年も対立して来た。

 これらの政治的・安全保障上のリスクは予測可能なものだったが、アビィ首相は明らかにこれらは管理可能な範囲の問題であり、仮にソマリアが国連に苦情を申し立てたとしても、より大きな利益の為にはリスクを取る価値が有ると計算した様だ。



ソマリランドを巡る今後の動き
 
 ソマリランドはソマリアからの分離独立を宣言しているものの、これまで国連加盟国でソマリランドを国家として承認した国は無い(台湾は別だが、台湾は国家ではなく中国の一部であると広く認められている)。従って最初にその承認を行う国になると云うことは容易な芸当ではない。しかもエチオピアはアフリカ連合(AU)の本部が置かれており、歴史的にアフリカ大陸の汎アフリカ運動や反帝国主義運動の発祥の地となって来た国だ。

 従ってアビィ首相のこの動きはアフリカ情勢に大きな影響を与えるだろうし、UAEもそうだ。UEAはソマリランドのベルベラ港多額の投資を行っている上、エチオピアとは良好な関係を築いている。

 またエチオピアはソマリランドと覚書に署名したのと同じ日(01/01)にBRICSに加盟したことも覚えておくべきだろう。これにより、安保理常任理事国であるロシアと中国が、ソマリランドの承認を理由にエチオピア(と恐らくはUAE)を非難する決議に賛成票を投じる可能性は低くなる。恐らくロシアと中国がソマリランドを正式に承認する可能性は低い。特に中国は自国の分離主義問題である台湾との関係が有るので尚更だ。しかしそれはエチオピア(とUAE)に対する制裁や武力による威嚇を支持すると云う意味ではない。

 客観的に見るならば、ソマリランドは、ロシアに独立国家として承認される直前のドンバス2共和国(ドネツクとルガンスク)よりも遙かに独立している上に、主張している領土も大きい。

 ロシアとソマリアは良好な関係を結んでいるが、ロシアはゼロサム政策を取っていないので、ソマリアの要請に応じて125年来のパートナーであるエチオピアを非難したりはしない。また分離主義の主張を認めないとなれば、ウクライナから分離してロシアへの編入を決めたドンバスの正当性にうっかり疑問を差し挟むことにもなりかねない。

 UAEもまたソマリランドの独立を承認した場合、ロシアは恐らくUAEも非難しないだろう(二国間であれ安保理でであれ)。UAEのムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン大統領は、2023年6月のサンクトペテルブルク国際経済フォーラムでプーチン大統領の主賓だった。しかもUAEは現在、ロシアにとって最大のアラブ貿易パートナーになっている。

 ロシアはエチオピアやUAEと緊密な関係を結んでいるので、時間が経てばこの2国が、ロシアもソマリランド承認に動くよう説得するかも知れない。

 最終的に何が起こるにせよ、ロシアはソマリランド、エチオピア、そして(UAEがソマリランド独立を承認した場合には)UAEとのソマリアの係争に関して、平和的解決を求めるであろうことは容易に予想が付く。これはロシアの、外国の係争に対する中立原則と一致している。

 他方、エジプトとエリトリアはエチオピアを封じ込めたいと思っているので、両国はソマリアと連帯して、エチオピア(とUAE?)との関係を悪化させるかも知れない。



まとめ

 この地域の軍事・外交・経済的パワーバランスを考えると、ソマリランドを巡って大規模な戦争が起こる可能性は低い。恐らくアビィ首相も覚書に署名するに際してそう評価していたのだろう。

 ソマリアはこの動きに激怒しているし、エジプトとエリトリアはそれぞれの思惑からこれに付け込もうとするだろうから、緊張が一時的に高まる可能性は有る。だがソマリアがエチオピア(とUAE?)に対して戦争を起こす可能性は低いし、エジプトやエリトリアもそうだろう。

 最善のシナリオ(但し可能性は低い)は、エチオピアの他の近隣諸国が、エチオピアとの港湾リース協定を考え直すと云うものだ。エチオピアがソマリランドの港を確保し、BIRICSに加盟したことにより、経済的繁栄が他の近隣諸国にも波及する可能性が有る。これが成功すれば更に多くの地域接続回廊の発展に繋がり、更に多くの外国投資を呼び込むことになるだろう。これにより、多極化へ向けたグローバルなシステム移行に於けるアフリカの角地域の台頭が加速することになる。

 仮にそうならなかった場合でも、この覚書が外交上の傑作であることには変わり無い。エチオピアはソマリランドは承認に値すると云う印象を与え、それによって港湾確保問題を平和的に解決することで内陸国であることから生じる諸問題を防止し、互恵的関係を通じて相互利益を確保することが可能であることを証明するだろう。
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川流桃桜

Author:川流桃桜
一介の反帝国主義者。
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