NYタイムズはスクープと称しているが、プーチンが和平推進に前向きなのは実は古いニュースだ(抄訳)
アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。2023/12/23、NYタイムズはプーチンが戦略的敗北を悟って停戦を切望していると云う偽スクープを掲載した。これは今後の和平交渉と云う妥協の現実を西洋の読者に受け入れさせる為の知覚管理作戦だ。
The New York Times’ Alleged Scoop About Putin’s Peace Push Is Actually Old News
NYタイムズの偽スクープ
2023/12/23、ニューヨーク・タイムズは、「プーチン大統領はウクライナでの停戦に前向きであることを静かに示唆している」と云う記事を掲載した。
Putin Quietly Signals He Is Open to a Cease-Fire in Ukraine
この記事は、プーチンは2022年秋に最初のそうした試みが失敗した後、今年の9月からずっと、この意向について発信し続けていると主張している。そしてその動機は、彼がロシア軍の戦略的敗北を暗黙の裡に悟ったからだと説明し、結局プーチンもロシアも信用出来ないと云う論調で終わっている。
平均的な西洋人にとっては、この自称「スクープ」は興味深いことに聞こえるかも知れないが、これは実際には古いニュースであり、そしてその細部は政治的な目的から捏造されたものだ。
ロシアはずっと和平を訴えて来ている
そもそも、ロシアはウクライナ全土を制圧したいなどとは一度も言っていないので、他の地域を占領出来なかったからロシア軍が敗北したことになる、などと云う主張は完全な砂上の楼閣だ。2022年9月の旧ウクライナ4地域で住民投票が行われた時点で既に、「ロシアの特別軍事作戦は近い内に自国の国境防衛に変わるかも知れない」と予想していたのだが、これらの分析では、ロシアの優先事項は、新たに統一された地域全体からNATOが支援するウクライナ軍を排除することであると結論付けた。そして事実、2022年11月のヘルソン地方北部での例外を除いて、両軍の接触線(LOC)は当時から現在まで殆ど変わっていない。これはロシア軍が弱いことが原因では全くない。
この場合、軍事的な膠着状態が続いた場合であっても、依然としてロシアにとっては戦略的勝利なのだ。
従って、プーチンが外交手段によってこの目標が達成出来るかどうかを探る為に打診を行った可能性は勿論有る。彼は2023年6月の時点で、2022年3月に行われた和平交渉で協議された条約草案を公開しているが、それに拠ればウクライナは憲法に「永世中立」を明記し、常備軍の規模も制限すると云うことで合意に達していた。
従って、2022年9月の住民投票後にこの協定を復活させようとしていたと云うことは十分有り得ることだ。
そしてまたプーチンは2023年6月には、西洋がキエフへの武器供給を削減する限り、ウクライナ代理戦争の政治的解決は依然として可能であると、3度も繰り返し示唆している。
プーチンはまた2023/12/14の質疑応答で、自分が西洋についてウブな考えを持っていたことを認めているが、これは和平の意向はロシアの弱さを意味しているものではないと釘を指しているのだ。彼は同じ質疑応答で、特別軍事作戦の3目標(ウクライナの非軍事化、非ナチ化、中立化)が依然として有効であることを再確認している。ロシアは当初の目標に関して、一切路線変更は行っていないのだ。そして彼はまた外交的手段でこれらの目標を達成出来るかも知れないが、出来ない場合は軍事的手段に訴える用意が有るとも念を押している。軍事的手段ではダメだから外交的手段に訴えている訳ではないのだ。
この偽スクープの意味
12/18、フィナンシャル・タイムズ(FT)は、領土割譲条約を含めた和平交渉の再開は、ウクライナの敗北ではなく勝利であると強弁する論説を掲載した。そしてこの記事はこれを国民に納得させる為に、元米当局者の発言を引用して、「我々は負けているが勝っていると言わなければならない」と主張している。
因みに領土割譲を認めた上での和平交渉は、過去に以下の人物が提案している。
・米共和党大統領候補ラマスワミ。
・元NATO最高司令官スタヴリディス提督。
・ヴァンス米上院議員。
NYタイムズの偽スクープの物語的重要性はそこだ。この記事はターゲットとする西洋の読者に対して、「プーチンはロシアの戦略的敗北を暗黙の裡に認め、停戦を切望している」と信じさせたいのだ。
これまで説明して来た様に、プーチンの和平の意向は当初からの特別軍事作戦の3目標を達成するのが目的であって、戦略的に敗北したから紛争凍結を求めている訳ではない。ロシアが停戦と引き換えに要求しているこれらの安全保障上の譲歩は、必ずしも領有権の主張の撤回を意味するものではないのだが、西洋にとってはこれでもまだ満足出来るものではない様だ。西洋は2022年3月に自分達が中断させた和平交渉を再開するようゼレンスキーに圧力を掛けているが、にも関わらずそこまでの譲歩を認める用意が出来ていないのだ。
NYタイムズが行い、FTが解説しているのは、国民に妥協案を受け入れる心構えをさせる為の知覚管理作戦だ。
但しこれは全体的な方向性の話であって、部分的には、例えばNATOがベラルーシに対してテロ代理侵攻を行って事態をエスカレートさせる可能性も無い訳ではない。だが西洋は反攻が失敗した時の為の「プランB」を持ち合わせていなかったので、今やっていることは泥縄式の対応に過ぎない。
何れにせよ、西洋はウクライナに於けるロシアの安全保障要求に妥協する方向に進みつつある。
The New York Times’ Alleged Scoop About Putin’s Peace Push Is Actually Old News
NYタイムズの偽スクープ
2023/12/23、ニューヨーク・タイムズは、「プーチン大統領はウクライナでの停戦に前向きであることを静かに示唆している」と云う記事を掲載した。
Putin Quietly Signals He Is Open to a Cease-Fire in Ukraine
この記事は、プーチンは2022年秋に最初のそうした試みが失敗した後、今年の9月からずっと、この意向について発信し続けていると主張している。そしてその動機は、彼がロシア軍の戦略的敗北を暗黙の裡に悟ったからだと説明し、結局プーチンもロシアも信用出来ないと云う論調で終わっている。
平均的な西洋人にとっては、この自称「スクープ」は興味深いことに聞こえるかも知れないが、これは実際には古いニュースであり、そしてその細部は政治的な目的から捏造されたものだ。
ロシアはずっと和平を訴えて来ている
そもそも、ロシアはウクライナ全土を制圧したいなどとは一度も言っていないので、他の地域を占領出来なかったからロシア軍が敗北したことになる、などと云う主張は完全な砂上の楼閣だ。2022年9月の旧ウクライナ4地域で住民投票が行われた時点で既に、「ロシアの特別軍事作戦は近い内に自国の国境防衛に変わるかも知れない」と予想していたのだが、これらの分析では、ロシアの優先事項は、新たに統一された地域全体からNATOが支援するウクライナ軍を排除することであると結論付けた。そして事実、2022年11月のヘルソン地方北部での例外を除いて、両軍の接触線(LOC)は当時から現在まで殆ど変わっていない。これはロシア軍が弱いことが原因では全くない。
この場合、軍事的な膠着状態が続いた場合であっても、依然としてロシアにとっては戦略的勝利なのだ。
従って、プーチンが外交手段によってこの目標が達成出来るかどうかを探る為に打診を行った可能性は勿論有る。彼は2023年6月の時点で、2022年3月に行われた和平交渉で協議された条約草案を公開しているが、それに拠ればウクライナは憲法に「永世中立」を明記し、常備軍の規模も制限すると云うことで合意に達していた。
従って、2022年9月の住民投票後にこの協定を復活させようとしていたと云うことは十分有り得ることだ。
そしてまたプーチンは2023年6月には、西洋がキエフへの武器供給を削減する限り、ウクライナ代理戦争の政治的解決は依然として可能であると、3度も繰り返し示唆している。
プーチンはまた2023/12/14の質疑応答で、自分が西洋についてウブな考えを持っていたことを認めているが、これは和平の意向はロシアの弱さを意味しているものではないと釘を指しているのだ。彼は同じ質疑応答で、特別軍事作戦の3目標(ウクライナの非軍事化、非ナチ化、中立化)が依然として有効であることを再確認している。ロシアは当初の目標に関して、一切路線変更は行っていないのだ。そして彼はまた外交的手段でこれらの目標を達成出来るかも知れないが、出来ない場合は軍事的手段に訴える用意が有るとも念を押している。軍事的手段ではダメだから外交的手段に訴えている訳ではないのだ。
この偽スクープの意味
12/18、フィナンシャル・タイムズ(FT)は、領土割譲条約を含めた和平交渉の再開は、ウクライナの敗北ではなく勝利であると強弁する論説を掲載した。そしてこの記事はこれを国民に納得させる為に、元米当局者の発言を引用して、「我々は負けているが勝っていると言わなければならない」と主張している。
因みに領土割譲を認めた上での和平交渉は、過去に以下の人物が提案している。
・米共和党大統領候補ラマスワミ。
・元NATO最高司令官スタヴリディス提督。
・ヴァンス米上院議員。
NYタイムズの偽スクープの物語的重要性はそこだ。この記事はターゲットとする西洋の読者に対して、「プーチンはロシアの戦略的敗北を暗黙の裡に認め、停戦を切望している」と信じさせたいのだ。
これまで説明して来た様に、プーチンの和平の意向は当初からの特別軍事作戦の3目標を達成するのが目的であって、戦略的に敗北したから紛争凍結を求めている訳ではない。ロシアが停戦と引き換えに要求しているこれらの安全保障上の譲歩は、必ずしも領有権の主張の撤回を意味するものではないのだが、西洋にとってはこれでもまだ満足出来るものではない様だ。西洋は2022年3月に自分達が中断させた和平交渉を再開するようゼレンスキーに圧力を掛けているが、にも関わらずそこまでの譲歩を認める用意が出来ていないのだ。
NYタイムズが行い、FTが解説しているのは、国民に妥協案を受け入れる心構えをさせる為の知覚管理作戦だ。
但しこれは全体的な方向性の話であって、部分的には、例えばNATOがベラルーシに対してテロ代理侵攻を行って事態をエスカレートさせる可能性も無い訳ではない。だが西洋は反攻が失敗した時の為の「プランB」を持ち合わせていなかったので、今やっていることは泥縄式の対応に過ぎない。
何れにせよ、西洋はウクライナに於けるロシアの安全保障要求に妥協する方向に進みつつある。
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